束の間の幸福、刹那の安息
秘密刑務所より北へ60km程離れた森の奥深く、人里離れたこの場所に木造一階建ての建物が佇んでいた。
何か別荘のような造りのその小屋の中からは微かに人の気配と物音が漏れていた。
「もぐもぐもぐもぐっ…」
「バクバクバクバクっ…」
間一髪、エヴァンスの助けを受け三日月の男の前から逃走に成功した2人は、それからひたすら走り続け夜明けと同時に隠れ家に無事辿り着いていた。
息も絶え絶えながら這いずる様に中に入り、まず始めに行ったのは食料の捜索だった。
空腹限界だった2人は小屋中の棚を無造作に開け始め、非常食を見つけるとその場に座り込み貪る様に食べ始めた。
体中の泥は道中の厳しさを物語っていたが2人はその汚れた囚人服を着替える余裕も無い程に飢餓と渇きの限界の状態だった。
「もぐもぐっ…っむあぁ、美味しい!はぁっ、はぁっ…もぐもぐもぐ…」
「バクバクバク…んん、本当…。助かって良かった、怖かったぁ…もぐもぐバクバク」
やがて体中に栄養と水分を届け終えた2人はちらかった床をそのままに小屋玄関の出入り口を施錠した。
やっとの思いで辿り着いた安堵の瞬間に2人は同時に倒れ込むような形で眠りに就いたのだった。
それから数時間が経過した頃、泥だらけの囚人服のまま眠り続けるハッカーは悪夢に魘されている様子だった。
「うぅ…うぅぅ…っは!!!」
全身汗まみれに飛び起きたハッカー。
その音に反応しミトンも目を覚ました。
「っはぁ、っはぁ、っはぁ…」
「…大丈夫?」
「…えぇ、大丈夫。何とか…」
「取り合えず、シャワー浴びて来たら?」
「…そうね」
ハッカーはミトンの提案をそのまま飲み込み1人浴室へと赴いた。
汚れきった囚人服を脱ぎ去り熱めのシャワーを全身に浴びるハッカー。
その温かみと爽快感で再び生き返った様な幸福感を味わうことが出来ていた。
30分程して身体にバスタオルを巻いたハッカーが出て来た。
髪の毛は濡れたまま瑞々しい姿を見せていた。
「気持ち良かった。いい匂いのするシャンプーで髪の毛洗えたのなんていつ振りかしら」
「ふふ。着替えはそこの棚にあったよ。流石に下着は無いみたいだけど」
「ありがとう。次どうぞ」
「えぇ」
ミトンはハッカーと入れ替わりでシャワー室に向かって行った。その時、
”コンコン”
「っはぁ!!!」
「えぇ!!?」
突然小屋の出入り口がノックされる音が鳴り響いた。
心臓を破裂させんばかりに驚き反応を見せる2人。
「だ、誰…?も、も、もしかして見付かったの?」
「地下に!駄目っ、間に合わない!!!」
2人が慌ててその場からどこかに身を隠そうとする中、有無を言わさずその扉は開けられた。
するとそこにはある1人の人物が立っていた。
「!!!」