正義の代償
イロヨクとブラックから自身の素性を明かす様迫られたエヴァンスは重苦しい空気の中、ゆっくりとその口を開いた。
「…俺は元SHRTだ」
「…!?」
イロヨクが一瞬の間を置き強い反応を見せた。
「サート…SHRTだって!?」
「…サート?何だいそりゃ?」
意味を掴めないブラックが問い掛ける。
「シークレット・ホステージ・レスキュー・チーム、各隊の選りすぐりが終結する人質救出の秘密部隊だ。都市伝説じゃなかったのかよ?」
「実在を知るのは極一部の関係者のみだからな。これでも隊長だった」
「たっ…隊長…!?」
イロヨクは口を開けたまま驚いている様子だった。
これまでのエヴァンスの言動とその物腰から醸し出る威風堂々たる存在感がイロヨクから疑いの念を極めて小さくしていた。
「マ、マジかよ?マジなんだよな?」
「あぁ。今更だが、カイリキを戦地で捕獲したのも俺達だ」
「何ぃ!?」
「ココに来て初めて彼女を見た時、直ぐには気付かなかったが間違いない。あの戦地で女兵士は彼女1人だったからよく覚えてる。まさかココに収監されていたとは驚いたが。現場の混沌と装備のお陰で俺の顔はバレて無かったから助かった」
「なんてことだい…」
「部隊の性質上、敵兵の捕獲も多く行ってきた。カイリキもその1人だった」
「け、けどよ、そんなエリート軍人がどうしてこんな所に?」
「…命令違反だ」
「命令違反?どういうことだ?」
エヴァンスは再度口篭ったが、やがて直ぐに語り始めた。
「国政や戦争が綺麗事じゃない事はよく分かっている。汚い仕事にも手を染めて来た。だがある時、任務の過程で敵兵達が一般市民の少女を誘拐した」
黙って聞き入る2人。
「連中は俺達が救出しようとしていた要人の手掛かりだった。こちらの存在を悟らせず泳がせる必要があったが、その為にはその少女を見殺しにしなければいけなかった。本部からもそう命令が下った」
「…」
「監視カメラで連中の映像は克明に映し出されていた。今から10人の男共にレイプされた挙句、頭を撃ち抜かれる少女の姿を黙って見届けろと言われた。少女は酷く怯えていた」
「…助けに行ったんだね?」
「その場での手掛かりは失ったが、当時の副隊長が優秀だったお陰で辛うじて作戦は成功。本部に戻った俺は軍法会議に掛けられ除隊処分の上でここに左遷されて来た」
「優秀なアンタはここの管理にはうってつけって訳か。看守とはいえ、やらかして政府に使い回しされてる点じゃ私等と変わらないね」
「全くだ」
「…そうだったのか。悪いな、嫌なこと語らせちまって」
「いや、イロヨク、お前の判断と行動は正しかった。次も同じ様にしろよ?」
「はは…そりゃどうも」
重苦しい雰囲気を一蹴しようと、ブラックが大きな拍手を打ち声を上げた。
「よっしゃ!これでアンタも立派なファミリーだ。それで?次の作戦は決まったのかい?正義の隊長さん」
「…今やるべきことはひとつだ!」
エヴァンスはそう言い放ち、力強く立ち上がった。