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取引極悪犯女子刑務所  作者: レイジー
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エヴァンスの正体

 エヴァンスが要請した政府関係者の中には先日死亡したマッドに対し心無い言葉を放った嫌味な男の姿もあった。


「おいおい、一体どうなってんだ?」

「報告した通りです」


 派遣された医者らしき男から正式に傷の手当を受けながら受け答えするエヴァンス。


「あの爆発事件の後、突然武装兵が襲撃に来た上、生き残った囚人共は命の危険を感じ脱獄を決行、終いには正面門にS級指名手配の殺し屋が待ち伏せてたってのか?」

「えぇ」

「何故直ぐに報告しなかった?」

「こちらも混乱状態だったんだ、どうすればいいか分からなかった。この施設の存在を唯一知ってる政府を疑うのは当然の判断です。今回の報告も命懸けの決断だったが、もうこちらには次の奇襲を耐え得る装備も人材もいない上での苦渋の決断だった。貴方方が犯人でないことを心から願っていますよ」

「…犯人に心当たりはないのか?」

「ある訳無い。潔白を証明したいところだが世界一優秀な心理学者はその死体袋の中だ。嘘発見器でも用意して俺達全員尋問に掛けてみるか?」

「…」


 エヴァンスの真っ直ぐな視線と語り口調から疑いを一旦保留にした様子の男は口元を撫でながら困惑した表情を浮かべていた。


「…一大事だ。明らかに何か黒い力が動いてる。大至急何とかしないと…。脱走犯の捜索と確保に事件の究明…あぁックソ!ただでさえこの施設絡みで動かせる人材は限られてるんだぞ。1週間はまともに寝れそうにない…」


 政府の男は頭を掻き毟りながらぼやいた。


「とにかく一旦本部に戻るぞ。おい、死体を運べ。イロヨク、お前達の処分は後でじっくり考えておく。覚悟しておけ!」


 そう捨て台詞を吐き捨て政府の男は他の関係者達と共に刑務所を後にした。

監視室に残ったイロヨクとエヴァンスは嵐が過ぎ去った様な静寂に身を置きカメラに拾われない程の小さな声で話し始めた。


「…見たところ奴等は本当に何も知らない様子だな。やはり政府全体の陰謀じゃないのは確定か」

「だな。政府全体の陰謀ならこんな回りくどい方法取らなくていいってのがそもそもだ」

「もしターゲットがミトンだということを知っているなら出来過ぎたこの展開を疑うはず、俺達が脱走を企てたと。ここまでデカいことを仕出かす人間がこの状況で素直に引き返すはずはない。知ってることを吐かせる為に拷問のひとつでもかますはずだ」

「…やっぱり、ハッカーが言った線が正しのか?政府の中に単独犯がいるって」

「分からない。全く別の組織の仕業である可能性もまだ捨てきれない。だがいずれにしても一旦ここへの攻撃は止むはずだ。犯人にとっては俺達が何かを知ってる可能性に賭けて拉致の上拷問にかけるリスクを犯すより直接外に逃げたミトンを探す方に力を注ぐはずだからな」

「見付かったら終わりだな…。なぁ、その場所本当に安全なのか?」

「特殊部隊の中継地だ。武器の補充や休息、応援部隊との合流などに使われる場所で極秘施設だから地図にも乗らない。その存在を知ってるのはほんの極一部の人間だけ。普通に歩いてたら辿り着けない場所でもある。暫くは安全だろう」

「…」


 イロヨクはエヴァンスの発言を聞きどこか訝しい表情を見せた。

そして疲れを見せる2人は合意の元で昼食と仮眠を取る事にした。

数時間後、起床し部屋から出て来たイロヨクは資料を眺めるエヴァンスを横目に監視室を出て行く。

特に気に留める様子も無くエヴァンスは引き続き資料に目を通していた。


(何故ミトンが狙われる?プロファイルを見ても変わったところは無い。本当にただのホームレスだ。なのに何故…?)


 すると先程出て行ったばかりのイロヨクがブラックを連れて監視室に戻って来た。

エヴァンスが気付く。


「ん!?どうした?」

「いやぁ…別に。とにかくこれで政府も本格的に調査に乗り出す。希望が見えたな」


 イロヨクはそう発するとエヴァンスからの反応を強く待っている様子だった。


「いや…犯人がそう簡単に尻尾を見せるとは思えない。それにもしハッカーの仮説が正しいなら実行してるのは十中八九トップクラスの権力者だろう。容易に捜査を打ち切りにした上事件をもみ消される可能性も高い」

「…じゃどうすんだよ?」

「だから直ぐに次の作戦を考えないといけないんだ。お前達も知恵を絞れ!」


 するとイロヨクとブラックは互いに顔を見合わせ、アイコンタクトの末再び同時にエヴァンスを見た。

ひと間置いてイロヨクがエヴァンスに対し真剣な眼差しで問い掛けた。


「…アンタは何者だ?」

「何!?」


 イロヨクと同様、隣に立つブラックもどこか疑う様な目でエヴァンスを見ていた。


「別にアンタを犯人だなんて思っちゃいねぇ。だけどこんな状況だ、アンタも素性を明かしとく義務あると思うぜ」

「…」


 エヴァンスは黙っていた。

その表情は冴えないものだったが、後ろめたさが滲んでいる様子でもなかった。


「どうして秘密基地の存在を知ってる?軍人ではあるみてぇだが奇襲した武装兵を返り討ちにした上、一流の殺し屋とサシで勝負して打ち負かす程の腕前はただの一兵卒ってこたぁねぇよな?政府の事に関しても随分詳しい。ハッカーならともかく、何の肩書きもねぇ人間の口振りじゃねぇよな?」


 引き続き沈黙を守るエヴァンス。


「ここに来たって事はアンタも訳有りなんだろ?話せよ。出来ればアンタに尋問なんてしたくはねぇが、こっちも命懸かってんだ」

「…冷静になれイロヨク。睡眠が足りてない、もう少し寝ろ」

「おい、俺は本気だぜ…」


 するとイロヨクは腰元に挿した銃をちらつかせた。

エヴァンスが顔色を変えない中、ブラックも口を開く。


「誰にでも語りたくない過去はあるもんだ。出来ればファミリーと言ってやりたいところだが、アンタはまだここに来て数える程だろ?こいつの言う通り状況が状況だし、時間を掛けて信頼を築く余裕は無いのはアンタも承知のはずだ。もう少し歩み寄る事が必要じゃないのかい?みんなで生き残るためにも」

「…」


 エヴァンスは2人の説得を黙って飲み込んだ様子だった。

数秒の間を置き小さく息をついた後、その重い口を開き語り始めた。

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