追い詰められた者達の決断
「無論リスクだらけだ。成功確率は決して高くない。もし捕まってしまったときは…分かるな…?」
ハッカーの脅迫めいた取り引きの提案を断る事が出来ず、エヴァンスはミトンとハッカーに対しそのまま自身の脱獄計画を話し始めた。
「だって、だってやるしかないんでしょ…」
「どの道このままじゃ死ぬんだもの、やるに決まってるでしょ!それで計画は?」
「あぁ。ひと芝居打つ。中央部屋が爆破されたといっても所内の監視機能は停止していない。死角が無い中で誰が見てるかも分からない状況だ、自然な形を見せかける必要がある。後々尋問された時の言い訳のためにもだ」
「具体的には?」
「ハッカー、お前はイロヨクと密かな恋仲だったことにする」
「え…!?」
「お前達は周囲の目を盗み何処かの部屋で楽しむ。それに乗じてハッカーがイロヨクの制服から鍵をすり夜中にミトンと共に脱走する」
「えぇ!?ちょ、ちょっと…」
「ミトンとハッカーはどこかで2人密談をしている様子をカメラに映すんだ。自然な雰囲気に親しげにだ」
「あ、う、うん…。分かった」
「ほう!悪くねぇ作戦じゃねぇか。のったぜ!」
イロヨクの表情が色欲に崩れる。
「ま、待って!それなら窃盗で捕まってるミトンの方が適任じゃ…?」
「ミトンはここに来てまだ日が浅い。イロヨクとそうすぐ恋仲になるのは不自然だ」
「うぅ…」
ハッカーはイロヨクが自身に向けるいやらしい視線に気付き悪寒の元、強く表情を歪めた。
「ミトン、ハッカーと仲良くなっているフリをするんだ。出来るだけ自然な演技でな」
「…」
ミトンはカイリキ達の言葉を思い出していた。
「…仲良くせざるを得なくなっちゃった…。まぁ、ある意味これも覚悟か…」
「ん!?何だ?」
「え!?あっ、ううん、何でもない」
「…そうか」
「で、でも、脱獄した後は何処に行けば?」
「地図と磁石を渡す。お前達2人はその場所を目掛けて一目散に走れ。へばっても撃たれても走り続けろ。半日はかかるがそこなら暫くは安全だ。普通に通りやすい道を辿ったんじゃ絶対に辿り着けない場所だ」
そう言ってエヴァンスは自身のデスク引き出しから小さな地図と磁石をミトンに手渡した。
「は、半日も?じ、自信無いよぉ…」
「死にたくなかったら死んでも走り続けるしかない」
「うぅ…」
そんな中、作戦に強く不満を感じている様子のハッカーが意見を呈す。
「ね、ねぇ。そんなシナリオで本当に上手く行くの?」
「即興の作戦だ。精度に問題があるのは当然だが今はこれが限界だ。命を狙われた状況なら人は冷静さを失う。イロヨクが規律を犯してハッカーの色仕掛けに応じるのも、ハッカーが命懸けで脱獄を試みるのも自然に見せられる」
「そ、そうかもしれないけど…」
「外に刺客が待ち構えてる可能性だってあるだろ?」
「あぁ…その時は足で振り切るしかない」
「武装してるであろう奴を相手に丸腰の女2人だけで?」
「言っただろ、今は時間がない。ゆっくり作戦を練ってる時間も下準備をする時間も無いんだ。そうすれば相手に体制を整えさせる時間を与える事になり逆に危険だ」
「…」
一同が沈黙する中、エヴァンスが号令を掛ける。
「即時決行する。そろそろ監視室のカメラも戻さないと怪しまれる。準備はいいか?いくぞ!」
そしてエヴァンスは監視室内カメラのスイッチを再び戻し巨大モニタの一角にはエヴァンス達の姿が映し出された。
他3人にアイコンタクトを送り、ミトン、ハッカー、イロヨクはそれぞれの行動に出るのだった。