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取引極悪犯女子刑務所  作者: レイジー
18/53

脱走計画

「なっ、何だってぇ!?」


 懲罰房から戻って来たエヴァンスが開口一番放ったひと言にイロヨクは耳を疑っている様子だった。


「脱走って、お前、一体何言ってんだ?」

「理由は不明だが、目的がミトンなら彼女をココから脱走させることで取り合えず襲撃は止むはずだ。行方を眩ませて時間を稼ぐ。上手くいけばその過程で相手が尻尾を出してくれるかもしれない」

「ちょ、おいおい正気かよ?脱走ってどうやって?どこに逃がす」

「計画はある。隠れ家にもアテがある。精度の高い作戦とは言えないが今は一刻を争う。明日にでもまた攻め込んでくる可能性だって大いにあるんだ」

「そ、そりゃそうだけど…。本当に上手くいくのかよ?」

「やるしかないんだ!奴等は本気だ、お前も十分分かっただろ?今回はこっちが油断してることを逆手に取って隙を突けたが次は必ず本腰を入れて来る。こっちに勝ち目は無い」

「イ、イヤ駄目だ!そんなことしたら俺がチクッたってバレるじゃねぇかよ!」

「もう手遅れだ。これだけのことをしてくる連中がご丁寧にお前だけ避けてミトンを暗殺してくれると思うか?既に何人殺されたと思ってる?」

「だっ、だけど…」

「パソコンが爆弾だって事前に知らされていたか?つまり犠牲は厭わないって事だ。それにお前はもう秘密の片鱗を知った。ミトンの暗殺が成功したら次は必ずお前が消される。それが奴等のやり方だ」

「そ、そんなぁ…。ほ、他に方法は無いのかよ?」

「無い!代案があるなら是非聞かせてくれ」

「うぅ…」


 イロヨクの表情は見る見る絶望に染まって行った。


「この混乱状態だ。ある程度の仕掛けを入れれば脱走は自然に見せられる。念のためダミーでもう1人逃がす。大した錯綜にはならないだろうが少しは時間が稼げるはずだ。その間に次の作戦を考える」

「…ちっくしょぉぉ。どーしてこんなことになっちまったんだよぉぉ…」


 そして夜は空け次の日の朝。エヴァンスはミトンのみを監視室に呼び出し脱獄計画の意図を告げた。

ミトンは話を聞いて酷く困惑している様子を見せた。


「で、でも…。怖いわ。捕まったらどうするの?」

「ミトン、怖いのは分かる。だがやるしかないんだ。全員が助かるにはこの作戦に賭けるしかない!」

「…逃げた後は?その隠れ家で一生過ごすの?その隠れ家は本当に安全なの?」

「次の行動と作戦は追って考える。とにかく今は時間を稼ぐ事が先決だ。君がこの作戦に同意出来ないならほぼ間違いなくここにいるメンバーは全滅する!」

「…」


 選択の余地が無い決断を迫られたミトンは俯き加減のまま小さく返事を返す。


「…やるしかないんでしょ?でも約束して!最後まで見捨てないで!死にたくない!」

「あぁ、勿論だ。最善を尽くす。それじゃ早速作戦を…」


 その時、監視室のドアが強くノックされた。


「…誰だ?」


 エヴァンスがドアを開けると、そこには鬼気迫る表情のハッカーが立っていた。


「ハッカー?どうした?」

「話は聞いてたわ。お願い、その脱獄計画に私も入れて!」


「!?」


 ハッカーは有無を言わさず部屋に入り込みドアの鍵を閉めた。


「私も一緒に脱獄する。計画を教えて」

「おい、急にどうした?」

「私だって死にたくない!お願い、計画に混ぜて!」

「…」


 エヴァンスはハッカーの表情からその決意の固さを感じ取っていたが、承諾を返すことなく静かに諭し始めた。


「ハッカー。この作戦はリスクだらけだぞ?ミトンが脱獄して連中の矛先が外に向けばここに残っていた方が安全な可能性が高い」

「それは私以外のメンバーの話でしょ?」

「!」

「私は死刑囚よ。今回の事件があろうが無かろうが、ここに居続ければいずれ刑は執行されてしまう。取り引きの恩赦なんて出任せ。政府の都合が悪くなれば私は直ぐに電気椅子送り。今までだってそうだったんでしょ?」


 エヴァンスはイロヨクの表情を伺った。

イロヨクが気まずそうな表情をしながら視線を逸らした事がハッカーの言い分の正しさを物語っていた。


「政府の気分次第でいつ死刑になるかもしれないって怯えながら一生を終えるなんてあんまりだわ。いつここの存在がばれたり、私より有能な技術者がここに連れてこられたらと思うと…。今まで何度悪夢に魘されて寝れないことが続いたか…」


 するとイロヨクは背後から声を投げた。


「いいじゃねぇか。どの道もう1人脱獄させる手筈だったんだろ?志望者がいるなら言うこと無ぇじゃねぇか」 

「…だが、こういう事は全員で話し合ってから決めるべきだ」

「ってか、全員まとめて脱獄させるってのじゃ駄目なのか?」

「駄目だ。人数が増えればその分リスクが高まる。隠れ家の装備や食料だって限られてる。最大2人までだ」

「お願い…。私は政府の悪政を暴こうとしてただけなの。悪人なんかじゃないわ。政府の都合で反逆罪のレッテルを貼られただけなの!冤罪よ!お願い、助けて!こんなチャンス、もう2度と来ない」

「悪政?何の事だ?」

「こんな施設を作る政府が他は全部クリーンだと思う?今回の件だって必ず何かある。私は元政府の諜報部員よ、必ず役に立つから!」

「…」


 エヴァンスは深く考え込んだ様子を見せていた。

時折ハッカーの表情を伺いながらも中々イエスを返そうとしないエヴァンス。

すると突然ニーラの表情が懇願から狂気に変わっていった。


「…悪いけど、私にも選択肢は無いの!」


 ハッカーは突然胸元から巨大なガラスの破片を取り出しエヴァンス達に向けた。


「動かないで!!!」

「!!!」


 咄嗟の出来事に一瞬遅れを取ったエヴァンス達が構えを取った頃、ハッカーは部屋の中にあるラップトップパソコンを奪い取りエヴァンスの寝室へと立て篭もった。

中から鍵を掛け部屋の中で沈黙するハッカー。


「おい、ハッカー!何をしてる?出て来い!」


 立て篭もりから約10分の膠着状態が続いた後、ハッカーはゆっくりと鍵を開け部屋から出て来た。

特に変わった様子の無いハッカーからパソコンを奪い返すエヴァンス。

画面にはこれまでに見た事も無いような画面が複数立ち上がっていた。


「おい、何をした?」

「ここの位置と情報をサーバーにアップしたわ。今はセキュリティで守られてるけど早めに消さないといずれ世界中にここがバレる。そうなれば貴方達全員証拠隠滅に政府から消されることになるわよ?」

「!!!」

「私を逃がしてくれたら潜伏先から解除パスワードを無線で教える」

「…!!」

「こんな短時間で設定したセキュリティなんて気付かれたら直ぐにでも突破されるはずよ。私より有能な技術者なんて世界にはごまんと居る。決断するなら急いだ方がいいわ。…さぁ、どうするの?」


 ハッカーの覚悟を決めた命懸けの交渉断行にエヴァンス達は退路を断たれた。

エヴァンスがミトンに決断を促したのと同じく、エヴァンスもまた決断を迫られるのであった。

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