「人体にはおよそ200の骨がある。今から吐くまで1本ずつ折り続ける」
懲罰房に向かったはずのサイコロと共に監視室に戻って来たエヴァンス。
エヴァンスから向けられたひと言に強く反応したイロヨクはソファから咄嗟に体を起こし、あちこちに視線を泳がせながら口を開いた。
「なっ、何言ってんだ?何の話だよ?」
明らかに何かを隠している様子のイロヨクを見てエヴァンスは横に立つサイコロにアイコンタクトを送る。
「イロヨク、自分、目ぇ泳ぎ過ぎやで」
「はぁ?何がだよ?」
「腕組んだ!自己防衛のサインや。後ろめたい事があるさかいに私等に拒絶反応を示しとる!」
「はぁ?おい!俺を疑ってんのか?何を証拠に?尋問ごっこでも始めようってのかよ?今は仲間割れしてる場合じゃねぇだろ?そんな事より今は次をどうするかを考えるのが先決だろうが!」
「口触った!嘘悟られたくないって合図や。口数も多い、何かを隠そうとしとるし話題の方向性を変えようとしとる。エヴァンス、こいつ黒やで」
それを聞いたエヴァンスは勢い良くイロヨクの胸倉を掴み、その腕力で相手の体を持ち上げ壁に強く叩き付けた。
エヴァンスの前腕がギロチンの役割を果たしイロヨクはむせ返り始めた。
「っぐぁぁ!!っげほっ、っげほっ…。おい、いい加減にしろ!止めろ、止めろってぇ!!」
「何故あの部屋で爆発したのがパソコンだと知ってた?」
「!!!」
「政府の鑑識が調査しても分からなかった爆発の原因をどうしてお前が知ってる?」
「っがぁ!!あぁぁぁ!!!」
エヴァンスの前腕がさらにイロヨクの喉に食い込む。
「敵兵が襲撃して来た時、お前はいち早く武器庫に身を潜めてたな?いち早く侵入者に気付いて身を隠したと言っていたが、奴等が最初の監視カメラに映った時、お前は既に監視室から姿を消していた。お前は最初から襲撃があると知っていたんだ!」
「あぁぁぁぁっっ…あぁぁぁぁっっ!!!」
「吐け!!!何を隠している?」
「し、知らねぇ!知らねぇ!俺は何も知らねぇよ!じ、実はお前に教えてない別のカメラの場所があるんだ!それにパソコンの爆発は俺が勝手に思い込んでただけでそんな言い方をしちまっただけだよ!そ、そ、そんな事よりっ、爆発した時お前だけ現場に居なかった!そっちの方が怪しいだろ!一体何してたんだよ?」
横からサイコロが言葉を挟む。
「話のリズムがバラバラやしえらい早口や。それに正面向いて喋ってへんし質問に質問で返しとる。観念しぃ!あんさん100%黒やで!」
「ぐぐぐぐぅぅぅ…」
エヴァンス本人も長年の勘からイロヨクの嘘を確信している様子だった。
すると一呼吸置いたエヴァンスはイロヨクを腹ばいにさせ、背中で腕を極める形でのしかかった。
そして、
”メキャ”
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うっわぁぁ…」
エヴァンスはイロヨクの左手親指を明後日の方向にへし折った。
鈍い音が響く室内。
それを聞いていたサイコロも強く表情を歪めた。
「俺達は戦場で捕えた敵兵に自白させる際、ある薬を使っていた。それは注入されれば脳に直接働き皮膚が焼け落ちる様な激痛を起こさせる薬だ」
「あぁっ…あぁぁぁぁっ…」
「その方法が有効だったのは痛みは勿論、精神を確実に追い詰める事が出来たことだ。気絶出来ない上に死ねない。つまり白状しない限りは永遠休み無くその地獄の苦しみが続く。体に障害が残らないからとても人道的でもある」
「っがぁ…痛ぇ…ちっくしょぉぉぉ!!!」
「出来ればお前にもその方法を適用したいところだが、今は時間も設備も無い。少々荒っぽい方法でいく」
”メキャ”
「ぎゃぁぁあああぁぁぁぁ!!!」
今度は人差し指があらぬ方向を向いた。
「人体にはおよそ200の骨がある。今から吐くまで1本ずつ折り続ける。無論首は残しておく、死なれては困るからな。全身の骨を折られても喋らない場合、次は両耳を千切り取る。次は片目をえぐり抜く。そこからは神経が集中している部分を重点的にナイフで切り刻む。説明は以上だ。では覚悟はいいか?」
エヴァンスの手が中指に掛かった瞬間、イロヨクの降参が叫びとなって放たれた。
「止めろぉぉ!!!分かった、分かったあぁぁ!!!止めてくれぇぇぇ!!話す、全部話すからぁぁぁ!!!」
そう吐き終わったイロヨクは半べそ状態となり体を震わせていた。
そしてイロヨクの口から真実が語られ始める。
「め、め、命令されたんだ…。最初はある囚人をこっそり殺せって言われたけど、そんなのはゴメンだって言って断った。俺も脅されたが口八丁で何とか説得したんだ。”俺みたいなヘナチョコにそんな事させても失敗して表沙汰になるぞ”って…。そ、そしたら別の事を色々と命令され始めたんだぁ…」
「相手は誰だ?」
「分かるもんか!いつも通りさ。電話の相手は名乗らないし声は変声機を使ってる。専用の回線で掛けてきたってことはこの施設を知る政府関係者なんだろ、きっと」
「何を命令された?」
「お察しの通りだよぉ!あの日はリストに無い物が届くからそれらしい演技をして中央部屋に置いておけって言われた。昨日は所内の警報装置を切って入り口の鍵を開けとけって言われたんだよぉ…。お前と夜の見回りを交代したのもそのためだったんだぁ!」
エヴァンスはサイコロにアイコンタクトを送った。
「…うん。ホンマ。嘘は言うてへん」
続けてエヴァンスはイロヨクに問い質す。
「お前は何者だ?」
「はぁぁ?何がだよぉ?」
「政府からこの極秘施設に看守として赴任を命令されたお前は何者だと聞いてるんだ?ここに来る前は何をしてた?」
「うぅ…うぅぅ…」
イロヨクは少しの間口篭ったが、直ぐに自身の素性を明かした。
「な、何でもねぇ。俺はただの衛生兵だよぉ…。ただ、そのぉ…じ、実は、戦地で捕虜にしてた15の女とヤッちまって…。レ、レイプじゃねぇぞ!その代わりとして食料とかを多めに支給してたんだ、取り引きさ。でもそれが見付かっちまって。それで、不名誉除隊を免れたかったらここの看守に就けって命令されたんだ…。ヤバイ匂いはしてたけど選択肢は無かったんだよぉ…」
「…」
エヴァンスは再びサイコロを見た。
「…うん、ホンマみたいやね」
そしてエヴァンスは最後の質問をイロヨクに突きつけた。
「政府から殺せと命令されたのは誰だ?」
「うぅ…うぅ…」
場に緊張が走る。
「…ミ…ミトンだ」
「!!?」