「黒幕はお前か?」
武装兵達の襲撃を乗り越えた一同は遺体となったメンバーと共に監視室に集まっていた。
息を引き取り横たわるチャイナ、アート、カイリキ、それを鎮痛な表情で見守る他のメンバー達。
ブラックがチャイナの頬を摩り小さく声を出す。
「チャイナ…息子の面会直前だったってのに…。こんなことってアリかい…?」
「…何で?一体何でこんな事が起こったの?ねぇ、ここって、今までもこんな事あったの?」
ミトンは強く動揺している様子だった。
「そんな訳ないだろ」
「ブラック、そっちでは何があったの?」
「警告を聞いて散り散りになった後、1人であちこち逃げ回ってたら廊下でチャイナが倒れてるのを見つけたんだ、撃たれてた。近くの部屋に引き摺ったが、その時にはもう死んでたよ…」
隣ではサイコロがカイリキの手を握って涙ぐんでいた。
「カイリキ…。ほんまめっちゃええ奴やってんで。情に厚ぅて誰にでも分け隔てなく仲良ぉしてくれはった。私が入った時も一番最初にみんなを紹介してくれたのはカイリキやった…。凶悪犯の私達を差別する事もせぇへんかった。ホンマ…男前やったで…」
「目の前で仲間を撃たれて逆上して…。全く、このバカタレらしい最後だよ…」
看守のイロヨクはアートを見ていた。
「…いつも不気味な女だったが、こうして死んじまうと…どうもな…」
「最後、母親を呼んでるみたいだった。亡骸はお母さんの元へ送ってあげられるんでしょ?」
「その子の母親はもういないよ。自殺したんだ、その子の刑が確定した時にね」
「えぇ!?」
「まぁ、凶悪犯の家族が世間からのバッシングに耐えかねて自殺する例は多いからな」
「そうじゃない。母親として責任を感じたんだよ。被害者に対しても遺族に対しても、そして、娘に対してもね…。その子の母親は娘を愛していたそうだ」
「…なら、せめて同じお墓には入れてあげないと…」
「あぁ、そうだね…」
すると監視室にエヴァンスが戻って来た。
「エヴァンス!どうだった?」
「駄目だった。倒した3人は全員死んでた…」
「ックソ…」
改めて混乱気味のミトンが声を上げる。
「ねぇ、一体何がどうなってるの?アイツ等何なの?何で私達が狙われるのよ?」
「知らねぇよ、こっちが聞きたいぜ!」
「奴等は正面門から堂々と入って来た。何故施錠されてなかった?何故警報が鳴らなかったんだ?」
「なぁ、とにかく早ぉ本部に連絡してぇな!」
「待って!」
元国家諜報部員のハッカーが制止した。
「ここの存在を知るのは政府高官の一部だけよ。今回の事、政府が黒幕の可能性が高い。下手に連絡しない方がいいわ!」
「政府が犯人や言うんかぁ?何でやねん?ほんならこんな事せんでも堂々と電気椅子に連れて行ったらええだけやないか。どうせ他に誰も知らへん場所やで?」
「…そもそも黒幕の目的は私達誰かの暗殺なの?」
「もしかして、ココの情報が外部に漏れたのかも?」
「どこの誰に漏れたのかは知らないけど命を狙われる程の恨みを買う覚えは…あぁ、有り過ぎるね。なんてたってココは極悪犯がより取り見取りだ…」
「最初の爆発、今回の武装兵、明らかに殺害目的だ。もし政府が黒幕だとしたら何故わざわざこんな方法を?」
「外部の仕業なら直ぐに政府に応援を要求するべきだが、もし黒幕が政府なら下手に連絡すりゃ情報が筒抜け。…チックショウ、どうしたらいいんだよ?」
「誰が?何の目的で?何が狙いだ?」
「どうするの?こんな孤立無援な場所で。また次が来るんじゃ?このままじゃ残った私達も全員殺されるかも…」
「爆弾入りのパソコン送り付けて来た上に完全武装兵8人だぜ?ボーイスカウトのやる事じゃねぇよ!絶対ヤベェって!」
「!!?」
イロヨクが発したそのひと言にエヴァンスは強く反応を示した。
じっとイロヨクを見つめるエヴァンス、イロヨク本人はその視線に気付いていない様子だった。
「…とにかく、今日は4人全員同じ懲罰房に入って夜を越せ。あそこが一番鍵が強固だ。一旦眠って体力を戻すんだ。送ろう。イロヨク、ココに残って監視を続けろ」
「分かった!」
生き残った4人の女囚達は恐怖に慄きながらもエヴァンスの提案に従い懲罰房へと向かって行った。
一人監視室に残ったイロヨクは疲れ切った表情でソファに体を倒した。
約3分程するとエヴァンスが監視室に戻って来た。
しかしその横には送り届けたはずの心理学者サイコロの姿もあった。
「ん!?何だ?どうした?懲罰房に行ったんじゃないのか?」
「…」
エヴァンスはイロヨクの問いに答えること無くじっとイロヨクを睨んでいた。
後ろ手でゆっくりと部屋の鍵を閉めるとイロヨクに攻め寄り問い質した。
「お前が黒幕か?」
「へ!?」