叶いし願いは終焉の味
侵入者の存在に気付き、女囚達の牢を開錠の上避難命令を出したエヴァンスはイロヨクの部屋を強くノックし始める。
「イロヨク!起きろ!侵入者だ!」
しかし部屋の中からイロヨクの反応は返ってこなかった。
咄嗟にドアノブに手を掛けたエヴァンスは部屋の鍵が掛けられていないことに気付く。
不思議に思う暇も無くエヴァンスはイロヨクの部屋に入った。
「…イロヨク?何処だ?」
しかしその中にイロヨクの姿は無かった。
エヴァンスはベッドの下やクローゼットの中を確認するもやはりその姿を見つける事は出来なかった。
イロヨクを探す過程で見つけた護身用の銃を手に取り部屋を出たエヴァンス。
自身の装備も部屋から取り上げると、音を殺しながらゆっくりと監視室を出た。
廊下の壁に身を隠しながらその奥を確認すると、こちらに向かって来る2人の武装兵の姿が見えた。
エヴァンスは瞬時の判断で先手必勝を取るべく自ら発砲した。
それに気付いた相手も曲がり角の壁に隠れ応戦を開始する。
「っぐ…!くそぉっ…」
するとエヴァンスが対峙する相手とは別の方向からも銃声が聞こえて来た。
(クソォ!奴等2人1組になって所内を回ってる!囚人達が危ない!!)
互いに壁際に身を隠しながらの銃撃戦が続く中、廊下を挟んだ反対側に1人の女囚が現れた。
「エヴァンス!!!」
「カイリキ!!!」
そこに現れたのは元敵国女兵士のカイリキだった。
カイリキもまた廊下の向こうから飛んで来る銃弾に注意しながら壁際に寄る。
無数の銃弾が流れる廊下を挟んで2人は状況を確認し合う。
「カイリキ!他のみんなはどうした?」
「バラバラになって逃げた!アイツ等一体何なんだよ?」
「分からない!だが間違いなく俺達を殺すつもりだ!」
「ざけんじゃねぇよ!爆破の次は戦争かよ。一体どうなってんだよ?」
「とにかく、今は逃げるしかない!敵は8人!2人1組になって動いてるはずだ!警戒を怠るな!」
「アタシにもエモノよこしなぁ!」
エヴァンスはイロヨクの銃をカイリキに向かって滑らせた。
「なんだよこりゃ?オモチャかよ?」
「武器庫は電子制御室の隣だ!援護する!合図を送るからこっちに来い!」
2人はアイコンタクトを送り合い、その合図を期にエヴァンスが無数に発砲を繰り出す。
その隙にカイリキはスライディングをする様にエヴァンスの元へと辿り着いた。
「よし、行くぞ!」
2人は周囲を警戒しながら廊下の奥へと進んで行った。
相手側からの銃声が止んだ様子を見て2人の武装兵はゆっくりとこちら側に進んできた。
そしてエヴァンス達が消えて行った廊下の奥に進み、次の曲がり角に辿り着いた、その時、
「っはぁぁ!!!」
「ぐあぁぁ!!!」
その曲がり角で待ち伏せていたエヴァンスとカイリキは2人の武装兵に飛び掛り銃と腕の動きを封じながら取っ組み合いへと発展した。
エヴァンスが瞬時に取り押さえた兵士の首をへし折ると、カイリキと対戦しているもう1人の兵士の延髄に肘撃ちを極めた。
体の力を失った兵士にカイリキが止めのアッパーを顎にヒットさせた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…。ちっくしょうぉ…。一体何なんだよ、コイツ等…」
「後だ。他の連中を助けに行くぞ!敵はまだ6人いる。装備を奪え。まずは武器庫を制圧しないと!」
倒れた2人の武装兵から各種装備を奪うエヴァンスとカイリキ。
そして周囲を警戒しながら武器庫に辿り着いた2人は周囲に敵がいない事を確認するとドアの鍵を撃ち壊し、ゆっくりとドアを開けた。すると、
「待て!誰か居る…」
中に人の気配を感じたエヴァンスは銃を構えカイリキに合図を送ると、勢い良くドアを開け部屋の中に手を伸ばし銃を向けた。
「動くなぁ!!!」
「ひやぁぁぁぁ!!!」
轟いて来たのは聞き覚えのある声、部屋の中から情けない悲鳴を上げたのは看守のイロヨクだった。
「う、撃つなぁ!!!俺だ!俺だぁぁ!!!」
「イロヨク!?お前、どうしてココに?」
「い、いやぁ、そのぉ…。じ、じ、実は、先に侵入者の事に気付いて、怖くて一人で逃げちまったんだよぉ…」
大型のライフルを抱き締め震えるイロヨクを見て呆れ顔を見せるエヴァンスとカイリキ。
しかし2人は直ぐに切り替え武器庫にある装備を自身の体に足し始めた。
「さっさと立て!お前も武器を持つんだ!」
「何!?」
「他の囚人達を助けに行くんだ。まだ敵は6人いる!」
「おいおいおい、冗談だろ?アイツ等どう見たってプロじゃないか!殺されちまうよ!」
「どこの所属か知らねぇが、お前だって元軍人なんだろ?ガタガタ抜かしてっとこの場で撃ち殺すぞ!!」
半ば脅迫されるかたちで渋々装備を纏い始めるイロヨク。
準備を整えた3人は互いに目で合図し合い、息を整え武器庫を出た。
「ったく。戦場に出たいなんて言うんじゃなかったよ。
こんなかたちで願いを叶えるなんて、意地の悪ぃ神もいたもんだぜ…」
そして3人は女囚達の仕事場所兼牢獄であった中央部屋へと辿り着いた。