鈍い男
翌朝、窓から降り注ぐ光はこの日の晴天を示唆していたが、所内の空気はそれに反して暗かった。
目的も無く爆破痕残る中央部屋に集まる女囚達と看守の2人。
カイリキが第一声を放つ。
「休んでていいだろ?どーせこの有様じゃ仕事なんて出来ねぇし」
「…あぁ。政府からは次の指示があるまでは現状待機との命令だ」
「そんじゃ、何年振りの2度ねを楽しむとするよ」
こうして面々はそれぞれの房へと戻って行った。
看守であるエヴァンスとイロヨクもまた、無言で監視室へと戻って行く。
意気消沈な2人はそれぞれ力なく椅子に腰を落とした。
「よぉ、酒でも飲むか?」
「…いや、結構だ」
「そうか。なら気晴らしにどっか出掛けてきたらどうだ?どうせやる事無ぇしよ」
「外出日は明後日だ」
「構いやしねぇよ。こんな状況だ。上だってぶつくさ言わねぇって」
「…そうか。それもそうだな」
そしてエヴァンスは部屋で着替えを済ませ車に乗り所を後にした。
近くにある街のコーヒーショップのオープン席に座りコーヒーを飲みながら近くにある教会をデッサンし時間を潰すエヴァンス。
すると店のウェイトレスが現れエヴァンスのカップにコーヒーを注いだ。
「おかわりどうぞ。ゆっくりしていってね。今日は暇だから」
そのウェイトレスはピンクの制服にフリルのついたエプロンを纏う金髪の美女だった。
エヴァンスは僅かに口角を上げ礼を告げる。
「ありがとう。この店のコーヒーは美味しいよ」
「見ない顔だけど、この辺の人?」
「いいや」
「そうなんだ。ウチの店、週末限定でオーナー特性アップルパイをやるの。よかったら顔出して。週末は必ず私もシフトに入ってるから」
「あぁ。考えておくよ」
そのウェイトレスは最後何かを言いかけたがそれを飲み込んだ様子を見せにっこりと笑い店の中へと戻って行った。
特にその様子を気にすることなくエヴァンスがコーヒーを口に運ぶと後ろの席に座るサングラスの老人がエヴァンスに声を掛けた。
「あの子を口説け、鈍い小僧め」
そして時間は過ぎ夜21時。
所に戻ったエヴァンスは監視室に直帰した。すると中でテレビを見ていたイロヨクに声を掛けられる。
「よぉ、帰ったか。楽しんだか?」
「さぁな」
「何だよ。女の1人でもナンパしなかったのか?せっかくの貴重な自由時間だってのに」
「…」
エヴァンスはどこか意味ありげにイロヨクを見ると、そのまま何も言わず自身の部屋へと入って行った。
そして制服に着替え再び姿を見せると、懐中電灯を取り夜の見回りに出ようとした。それを見たイロヨクは咄嗟にエヴァンスを呼び止める。
「あ!ちょいちょい。今日の見回りは俺がやるよ。お前は先に寝てていいぜ」
「…何だ急に?」
「あぁ、いやぁ…そのぉ。ほら、例のパンティの件、政府連中に黙っててくれただろ?口止め料だと思ってくれりゃいいよ」
「…別に元から報告するつもりはなかったが?」
「まぁまぁそう固いこと言うなって。俺の気が済まないからよ。その代わり、これで同罪取り引きはチャラってことで頼むぜ?」
半ば強引に懐中電灯を取り上げたイロヨクはエヴァンスの肩を叩くとそのまま監視室を出て行った。
エヴァンスはどこか気になる様子を見せながらもイロヨクが姿を消すと自身の部屋の中へと入って行った。
就寝時間である夜22時からおよそ4時間が経過した夜中の2時。
自身の部屋で床についていたエヴァンスだったが不意に目を覚まし寝巻きのまま監視室へと出てきた。
監視室では無数の監視モニタ映像のみが光を放っており、エヴァンスはその映像を眺め始めた。
すると、
「…ん!?」
刑務所正面門を監視するモニタ映像に不穏な影が映っていることに気付いたエヴァンス。
映像を拡大するとそこには完全武装した8人の黒尽くめ集団が映っていた。
「何だコイツ等は…?」
言葉を発せず手先の合図だけで意思疎通を図り合うその集団は明らかに所への侵入を試みている様子だった。
じっと静観するエヴァンス。すると次の瞬間、信じられない映像が映し出された。
「何!?」
その集団は特段侵入工作を施すこと無く、普通に正面門を手で押し開けた。
「何故門が施錠されていない!?」
開けられた門から颯爽と雪崩れ込んでくる武装集団。
そのスピードはおよそ1~2分程でエヴァンス達の居る建物へとう到着する勢いだった。
「くそっ!!」
エヴァンスは慌てた様子で操作台のスイッチやレバーを操作し始めた。
そしてマイクに向かい所内放送を放つ。
「囚人達に告ぐ!侵入者だ!各々散り散りに身を隠せ!鍵を掛けられる部屋を見つけて施錠し息を潜めるんだ!」
「!!?」
エヴァンスの放送を聞いた女囚達は突然の事に各々飛び起き、開錠された牢を抜け中央部屋へと姿を現した。
「何だ?一体何の騒ぎだ?」
「侵入者?何のことだい?」
女囚達がお互いに様子を探り合っていると、突然遠くから派手な銃声が聞こえ始めた。
「逃げろ!!!」