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取引極悪犯女子刑務所  作者: レイジー
11/53

無言の出所、陰謀の影

 翌朝、所内には数人の政府関係者が集まっていた。

現場検証をする者、事情聴取をする者、そして、


「マッド…」


 マッドの遺体を搬送する者。

死体袋に入れられたマッドは2人の政府関係者に車へと運ばれた。

エンジンがかかり無言の出所を遂げるマッドを一同は悲痛な表情で見守っていた。


「マッド…」

「くそっ!何でこんなことに…」

「…」


 そんな中、仕立ての良いスーツを纏った政府の男が背後から声を掛けて来た。


「やれやれ。全くとんだ災難だ。あのイカレ科学者は政府としてまだ使い道があってっていうのに」

「…」

「まぁ、違法な人体実験をしてた罰が下ったんだろ。通常の因果応報なら解剖された上で剥製にされるところだったんだろうが、苦しまずに死を迎えられたのは神のお慈悲かな」


 男の心無い言葉に怒りを露にするカイリキ。


「テッメェ…もういっぺん言ってみろ!!」


 カイリキが男に掴みかかろうとしたそれをエヴァンスは肩に手を置き制止した。


「…」

「エヴァンス…」


 エヴァンスの表情を見たカイリキは冷静さを取り戻し身を引いた。

そしてエヴァンスはその訝しい表情のまま男に言葉を返す。


「死者を悪く言うのはいかがなものでしょうか。人としての尊厳と品性を疑われかねない」

「何だと貴様!たかが看守の分際でこの私に意見するというのか?」

「あぁ。その通りだ」

「っぐ…」


 男はエヴァンスから向けられた威圧のある視線と言葉にたじろいだ。

自身より遥かに格下であるはずの相手にも関わらず、男は内心腰の引けを感じていた。

悟られない様に小さな咳払いで体勢を整える男。


「…ふん、看守の分際で。1人の囚人相手に何をそんなに熱くなってる?馬鹿らしい。奴は身勝手から法を犯した大罪人だぞ。自身の名誉目的で実験材料にされ人権を踏みにじられた人間が何人いると思ってる?」

「それは違うよ!」

「何!?」


 男の話をブラックが遮った。


「あの子が実験台にしてたのは重い病に犯された人間や自殺志願者達ばかりだ。本人達の了解を取った上で実験してたのさ。勿論痛みなんかにも最大限配慮してね」

「…」

「あの子が目指してたのは次世代の再生医療と悪性腫瘍の根絶。小さい頃ガンで友人を失った時から固めた決意を最後まで緩めなかったのさ。大勢を救いたい、志願者には必ず自分の熱い理想を語って、それに強く同意した人間だけにメスを入れてたんだよ」


 マッドの素性を始めた知ったエヴァンスはブラックの話に聞き入っていた。


「”意味のある死を迎えられた。感謝します”。多くの人間はそう遺書を残したそうだ。裁判じゃ遺族の多くもその有罪には反対してたって話だよ。お前さん、そのツラからしてこの辺の話は知らなかったみたいだねぇ?」

「むっ…」

「態度だけ威張り腐ってるが、さては関係者の中でも相当下っ端なんじゃないかい?それからその腐った性格のお陰で同僚からはぶられてるってのが関の山だろ?」

「なっ、何ぃ!!?」

「うせな。小僧が」

「ッググ…」


 全員から冷たい視線を浴びる男はその場に居辛くなり、捨て台詞を吐きながらその場を去って行った。


「っけ。ブタ共が!」


 立ち去る男の背中に他のメンバーも冷たい声を掛ける。


「っふん。ええ気味やわ」

「お坊ちゃん丸出しだねぇ。さぞエリート街道だったんだろうさぁ」


 すると現場検証を行っていた別の政府関係者の男がエヴァンスとイロヨクを呼び付けた。


「看守の2人。ちょっと来てくれ」


 呼び出した男と共に爆発現場となった中央部屋に赴いた2人。

そこには事件の痛々しい光景がそのままの状態で残されていた。


「色々と調べたんだが、何もかも木っ端微塵で爆発の原因は不明だ。ここ最近で何か変わった事は無かったか?」

「…いや、特には」

「そうか。色んな機械が設置はされていたが、ここまでの大爆発を起こすのは明らかに意図的な物だ。可能性としてはあの科学者が何かしらの薬品を操作したんじゃないかとふんでるんだが…」

「あぁ、その可能性はあるんじゃねぇか?」

「馬鹿な。今回の爆発で犠牲になったのはそのマッド本人だけだ。自殺目的でそんな事をしたっていうのか?」

「もしくは無理心中目的かもな」

「マッドは直前まで熱心に研究をしていた。これから死ぬ予定の人間がそんな事をすると思うか?」


 エヴァンスとイロヨクの推測を聞いてた政府の男は手掛かりが無さそうな状況に疲れ気味の溜め息をついた。

するとイロヨクが空気を変えるひと言を放つ。


「…そういやぁ、爆発が起こった時、ここに居なかったのはお前だけだよな?」

「!!」


 政府の男がエヴァンスを見ると同時にエヴァンスの声色も変わった。


「…俺が犯人だと言いたいのか?」

「お、おいおい、そうマジになるなよ。そういう状況だったって思い出しただけだろうが。別にお前を疑ってる訳じゃねぇよ」

「…」


 政府の男は再び小さく溜め息をついた。


「おっけー。取り合えず状況は分かった。お前達は囚人共のケアに当たれ。どの道このままじゃ仕事は出来ないだろうから、政府から次の指示があるまでは現状待機。以上だ。おい、引き上げるぞー」

 

 男の号令で他政府関係者も作業を中止しその場を引き上げて行った。

外でマッドを見送っていた女囚達と入れ替わりで施設を後にする政府関係者達。

中央部屋に集まった一同は特に言葉を発すること無く自分達の房の中へと帰って行った。


 同じ日の夜、とある森の中に佇む屋敷、明かりが点けられてない部屋には窓から月夜が注ぎ込み、その明かりを頼りに2人の男が互いの存在を確認し合い、怪しげな会話を交わしていた。


「作戦は失敗。くたばったのは頭のイカれた人体実験屋のみだとさぁ」

「…」

「あまり大きなイベント連発してちゃぁ流石に怪しまれるんじゃねぇのかい?決めるなら次で確実に決めなきゃ、お宅の立場も怪しくなるってもんだぁ…」

「…」


 ハスキーな声で流暢に喋る中年の男、月夜が照らすその男の首には三日月のタトゥが刻まれていた。

そんな男の話を向かいで黙って聞く長身の男。

その男が見せる瞳には暗闇の中にありながらそれを越える程の漆黒を映し出していた。

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