はじまりはじまり
<本日は我が国の英雄にして救世主、革命党のニルガン議員とドドノ議員にお越しいただきました>
その日、とある喫茶店のテレビ画面にはあるニュース番組の映像が流されていた。
ゲストを招いてのインタビューが行われている様子でキャスターの女性が2人の政治家を紹介している場面だった。
<早速ですがニルガン議員、ドドノ議員。お2人が所属する革命党が実権を握られて以降この国は見る見るうちに国情の回復が見られました。これまで80年に渡る不況の中、失業率は20%を超え多くの国民が路頭に迷い、年間の自殺者は優に5万人を超える悲惨な状況から一変、国内総生産を約10%も上昇させ、国民満足度ランキングでは世界5位にまで上り詰めました。この様な輝かしい成功を収められた要因は一体どこにあるのでしょうか?>
するとキャスターから質問を受けたニルガンという議員が口を開く。
<特別な事は何もありません。ただ我々は今、目の前に与えられた責務をひとつひとつ全力で全うしようと思いました。今から何かを足すのではなく、余分を省き残された大切な事柄に全力を注ぐ。国民の皆様がそんな我々の方針を信じてついて来ていただけた賜物です。今回の栄光は我々革命党だけの功績ではありません。国民の皆様一人ひとりのご理解と努力があってのものなのです>
ソファに深々と腰を掛け、雄弁に語ったその男はおよそ60歳前後と思われる高齢の男。
線が細く白髪のオールバックを携えにこやかな表情を見せていた。
キャスターは重ねて質問を繰り出す。
<しかし、これまでどの政党も成し得なかったここまでの偉大な功績には何か秘密があるのでは?国民からは大きく疑問の声が上がっています。まるで魔法にかかったかの様にこの国は富と活力を取り戻しました。御党の名前に沿う様な革命的な政策は何一つ施行されないままここまでの回復を見せた事に対し国内では黒い噂が飛び交っています。そちらに関してはどうお言葉をいただけますか?>
ニルガンという白髪の議員は続けて雄弁を発する。
<我が国に必要だったのは革命的な政策などではなく、ひとりひとりが当たり前のことから逃げ出さない事。それにたまたま我が党が気付き着実に実行していったというだけの事です。ある種皮肉ではありますが、それこそが本当の革命だったのかもしれませんね>
ニルガン議員の隣に座る恰幅の良いおよそ50代程と思われる男、七三分けの髪を整えたドドノという議員も言葉を被せる。
<我々革命党がまず始めに行ったことは国民の皆さんを信じる事でした。それに皆さんは本当に良く応えてくれました。しかし、我が国の力はまだこんなものではありません。これからも更なる栄光と成功を実現するため、我が革命党は国民の皆さんを信じ続けます>
インタビュー映像を見ていた客の1人が口を開く。
「しっかし本当謎だよなー。俺達は助かってるけど、一体何がどうなってんだ?」
それから差しさわりの無い問答が約15分程続いた後、インタビューのコーナーは終了した。
映像が切り替わり別のキャスターが画面に姿を見せると、本日の緊急ニュースを伝え始めた。
<本日未明、○○地区の大型老人ホーム施設にてテロリストと思われる武装集団が施設を占拠しました。約30分に及ぶ地元警察との交渉の末、武装集団は施設に設置した爆薬を爆発させ逃走。施設は壊滅状態となり、現在までに586人の死亡が確認されています>
テレビ画面には凄惨な現場が映し出され、喫茶店に訪れていた客は全員食い入るように画面を見つめていた。
「また爆破テロかよ。最近多くないか?」
「いや、多すぎる。決まって病院だの老人ホームだのが爆破されてるけど、同じテロ集団か?」
昨今多発している爆破テロは国民の心に強い疑問を刻んでいた。
それはどの事件においてもテロリスト集団から国に対し具体的な要求が出されていないことだった。