俺は一生、恋をしない
恋だの何だの、そんなものに現を抜かしている奴らを鼻で笑って来て早数十年。
周りから独り身街道まっしぐらかよ、なんてからかわれることにも、もう慣れた。
実際問題、好きとか嫌いとか単純な感情に振り回されている様は、ただの脳内お花畑野郎としか俺には思えない。
捻くれてんなぁ、と成人してもよくつるむ、うるさい馬鹿共にも言われたが、それの何が悪いのか。
周りの、所謂、恋話というものに耳を傾けてみれば、聞こえてくるのは面倒くさいことばかりだ。
たった一度の人生なのに、一時の感情に振り回されて疲弊していくだなんて、俺はごめんである。
――なんて、思っていたのに。
気付いたら目で追い、近くを通れば話しかけられたりしないかな、なんて期待している。
その上、あの細っこい手に触れてみたい、だとか、そんな欲ばかりでいっぱいになっている自分がいた。
それ完全に恋してんじゃん、なんてよくつるむメンバーの中で一番ヤンキーくさい奴に言われた時には、一瞬頭が真っ白になり、気付いた時にはすでに一発蹴りを入れていた。
蹴り入れたが、俺は悪くない。
意味不明なことを言い出したあの馬鹿が悪いのだ。
そんな過去のことを思い出しつつ、今日もまた目だけで追いかけているわけだが、断じて俺は恋なんてしていない。
ただ気になっているだけ。
そう、何か知らないけれど、気になっているだけだ。
頭の中で繰り返していると、バチッと目が合ってしまい、途端に逸らすことも出来ずに、あ、やばい、なんて内心慌てる。
だというのに、ふにゃり、締りのない、それでも幸せそうで花が咲いたようにソイツは笑った。
その笑顔を見た瞬間に、心臓が訳分からないくらいに痛くなり、どうしよう、死ぬ、なんて思ってしまう。
俺は、一生恋をしない。
してたまるか――こんなん、命がいくつあっても足りねぇわ。