聞いた事のある声
山口は小さなナイフを持っていた。
そのナイフでココを脅した。
「早く脱いで裸になれよ。ケチケチしてんじゃねぇよ」
「ノ―!」
ココは携帯電話を出し、警察に連絡するところを山口は足蹴りして、携帯電話を遠くへ飛ばした。
レイプするつもりだろう。
ココは玄関にある物、靴や傘や飾り物などありったけの物を山口に投げつけた。そして土足のままリビングの窓を開け、
「助け!助けて!レイプ」と日本語で怒鳴った。
「テメェ、ふざけんなよ」
と山口は、後ろからココの髪の毛を掴んで引っ張り、腕を切りつけた。
鋭い傷みと共に服の上に血が滲み出したかと思うと、手首まで、血が流れた。
ココはそれでも窓に向かって助けを求めた。
床は血の海。
いつの間にか山口は逃げた。
開けっ放しのドアを勢いよく開けて、助けを求めるココの声を聞いた隣の部屋に住む空手マンがやって来た。彼はすぐに救急車を呼んだ。
ココの腕の傷は、20針縫う大怪我だった。
山口はすぐ逮捕され、シアトルから父親がココを迎えに来た。
「ココ、アメリカに帰ろう」
あれから数ヶ月過ぎた。
ココは暫くはシアトルの実家で過ごしていたが、ロスアンゼルスのランデイと連絡を取るうちに、再びロスアンゼルスへ戻る決心をした。
反対する両親を説得するのが大変だった。
ランデイがシェアする部屋の仲間に入れてもらい、ココは大学へ戻った。もう、オ―ディションは受けない。きちんと大学を卒業して、フルタイムの仕事につく。夜は深夜営業のカフェで働き、土曜日はエアロビクス教室のインストラクタ―をして働いた。
カフェでのココの仕事は、カフェオレにミルクで絵を描いたり、スチーマ―で飲み物を作る。
客の要望の絵を描いたりもする。
昼間の講義の後の7時間労働である。メイクは落ち、目の下にはクマが現れる。ろくに食べてない日もあり、ココはフラフラだった。
夜10時を過ぎたあたりから、疲労感は増していく。
長時間立ち続け、血液が下がり、頭の中がふわふわするのは、貧血だと判っていた。
「カプチ―ノ」
背後で聞き覚えのある男性の声がした。
続く