さよならも言わずに
ほんの数日の間に、ココはジェフリ―の前から消えた。
朝の散歩に来なくなったココの携帯は番号が変えられている。
アパ―トメントには、サラという女性しか住んでいなかった。
感じの悪い女性で、ココとランデイの行方を話してはくれなかった。仲が悪いと聞いていたから、知らないのかもしれない。
ジェフリ―は理解出来ずにいた。
これはココとの別れではないと思っていた。何かの理由で何処かに行っているだけだと。
オ―ディションで何処か遠くへ行っている。それとも、両親の住むシアトルへ戻っているか、時々していたモデルの仕事でニュ―ヨ―クだろうか。
まさか刑務所にいる訳はないだろう。
彼女の働いていた旅行代理店やコ―ヒ―ショップを訪ねてみたが、誰もココの行方を知る者はいなかった。ジェフリ―は探せる範囲は全て探した。週末は日系ス―パーへ行き、彼女に似た後ろ姿を見つけては顔を確認した。
マンハッタンビ―チや彼女とよく行ったステ―キハウス、ショッピングセンタ―、映画館、バ―、全て探した。
何も手につかない。夜は深酒ばかり。
とうとう彼は大学を辞める決心をした。専門病院でスポーツドクタ―として採用された頃、妻との離婚が成立した。
ココ、これは別れなのかい?
まだ、受け入れられないよ。
どうしてサヨナラも言わずに、僕の前から姿を消したの?
いや、違う。優しい君はこんな酷い別れを、僕に突きつけたりしないだろう。
きっと君は僕の前に現れる。
ココは日本へ来ていた。コ―ギ―のミカはシアトルの両親に預けた。
エ―ジェントとの契約は一年。雑誌やCMの撮影ばかりで、イベントコンパニオンや大企業のパーティーのホステスをさせられる事もあった。
「一晩1000ドルくらい」
ココの耳にモデル仲間の会話が入ってきた。
一晩1000ドルって何?
モデルだけでは生活が成り立たず、夜のアルバイトをする者が多いと知り、ココはショックを受けた。
モデル事務所の裏の顔が、外人モデルデ―ト嬢派遣事務所であったりする。
数ヶ月もするうちに、ココの気持ちは荒んで行った。
こんなコンパニオンばかりやってられないわ。
でも私は、夜のアルバイトは絶対しない。
ジェフリ―今頃、どうしてるかしら。
離婚した?
新しい恋人見つけた?
東京で働く不良外人達は、六本木で朝まで飲んでいる。ドラッグや売春をする者。名ばかりの外人モデルや女優は気付かぬうちに堕ちていく。
ココもそうなりそうだった。契約八か月目にして仕事が激減。
彼女は英会話教室の職を得た。ランデイも日本でしていた仕事。彼女は今、違うシェアメイトと住み、違う仕事をしている。
「ココ先生、これプレゼントです」
ココの英会話教室の生徒、山口は彼女のファンだ。可愛らしいぬいぐるみをプレゼントしてくれた。
「まぁ、ありがとう」
「飲みに行きませんか?」
「二人で?」
「はい」
ココは相手が誠実そうなサラリ―マンの山口なので、居酒屋に誘われて着いていった。
片言の英語で必死に話し掛ける山口に、ココは好感を持てた。
帰りが遅くなり、強引な山口は「ココのマンションまで送る」と言い出した。断ってもしつこい。酔っているらしく、ココは振りきれずに困惑した。
それでも何とかマンション近くで、別れた。
「恐い。しつこかった」
ドアの鍵を開けた途端、帰ったはずの山口が背後に立っていて、ココを玄関内に押し込み、自分も玄関に入り、ドアロックをかけた。
「何ですか?警察呼ぶわよ‼」
「脱げよ!モデルだろ?」
続く