第7話
開け放たれた門、その奥に自分が「博士」と呼ぶその人と進む。上ってきた坂道とは異なり、整備された並木と植物。宿の窓からは見えなかったその建物は、Tokyoにあったとしても馴染むことは無い、普通のそれとは違った。
「さて、これ首にかけて」横に歩く博士から入館証のカードを受け取る。
「覚えているとは思うけど、入館する時はコレだからね」
「はい、覚えてます」
博士が目を指さして教えてくる。首から下げているこれはあくまでビジターである証。この建物自体入管はすべて虹彩認証、どこかしこにあるセンサーが目を読み取ってくる。
「もう何年目になるのかな?」
「5年目です。あっという間ですね。あの博士…」
「博士はやめてくれないかな。アマクサでいいよ、短い付き合いじゃないんだから」それが彼の名前。既に5年ここに通っている自分にとっては、顔見知りでありここの案内役兼世話係。
「じゃあアマクサさん、この一年ルリに変わったことってありましたか?」
「いや、これといったことはないかな。良くなることもなければ悪化することもない。5年前に入った時からずっと一緒さ。あの中で彼女が少しずつ成長しているのを見ると、不思議で仕方がない。なんで目を醒まさないのかなって」
「そうですか…」わかっていたことを聞いた。だが何か期待していた自分もいる。予想通りの答えが返ってくることがこれほど切ないとは。
正面入り口のガラス扉が近づくと、ガラスに円形の画像が映し出される。入ってくるであろう人間の虹彩を自動的に読み取っているのだろう。立ち止まることなくスムーズに扉が開き、建物の中に通される。
閑散とした島内とは打って変わって、どこにこれだけの人がいたのだろうと思うほど、大勢の人が建物の中に入る。アマクサ同様白衣を着ている者もいれば、作業着のようなつなぎを着た者もいる。
「入館手続きはもうしてあるから、さぁ行こうか」
「はい」
目的の場所は知っているので案内されるまでもないが、一応部外者。一歩下がって付いていく。エレベーターに乗り、施設の下層へと進んでいく。
カードを取り出したアマクサさんがエレベーターの階層ボタンの下にそのカードを挿入する。すると通常とは異なる操作盤が現れ、目的の階層の数値を入力する。限られた人間しか入ることができない、そんな場所に向かう。
「そういえば、全世界の同施設からデータが集まったんだけど、ルリちゃんの感知能力は世界でトップ3だよ。凄い精度だ」
「そうですか。喜んでいいのかな?」
「そうだね。手放しで喜べないけど、なんか少しだけホッとしたよ。複雑だね」
返す言葉が見つからない。そのまま黙ってエレベーターが目的地に着くのを待つ。しばらくの後目的の階層へと到着するエレベーター。
―B22―
階層の深さからこの場所は「Bトゥウェルブトゥー」と呼ばれている。上層階とは異なり室内灯もまばら、薄暗い。
「さぁ、こっちこっち」
先導するアマクサさんに付いていく。そして目的の場所にたどり着く。今度はカードキーではなく建物の入り口と同様、目を機械にかざすアマクサさん。認証が終わり三重の扉が縦に横にと開く。
目に飛び込んできたのは、大きな大きな試験管のようなもの。部屋の中それだけがライトに照らされている。何か液体のようなものに満たされたその中には、一人の女の子が一糸まとわぬ姿、恥部だけを機械のようなもので隠され、何本か伸びるケーブルで固定された姿で目を閉じ浮かんでいる。水中のように髪は四方八方へ伸び揺らめいている。その試験管のようなガラスには大きく【AEGIS SYSTEM 07】と縦に書かれている。
「ルリ、久しぶり」