第4話
空から光が降ってくる。
いつもの見慣れたはずの光景。
だがその日は違った。
小さくなることなく近づいてくる光。
それは自分たちの頭上めがけて降り注ぐ。
なぜこんなことになったのだろう。
神様にでも聞かないとわからない。
―あぁ、まただ またあの夢だ―
「間もなくヒロシマ、ヒロシマ。どちら様もお忘れ物ないようお気をつけください」
到着を告げる社内アナウンスで浅い眠りから覚める。リニアは速度落とし始めている。一つあくびをし、座席上部のラゲッジスペースから荷物を取り出す。車内を見まわすと数名自分と同じように降車するための準備をしている。誰を見てもその顔に明るさはない。
元々「広島市」と呼ばれた都市は既に無く、内陸側山間部に改めて同名の都市が築かれている。海側の都市と島々はほとんど無くなってしまった。だが、奇跡的に残る土地があり、そこが今回の目的地。
広島のホームに到着し扉が開く。後ろから差してくる夕日の日差しでガラス越しに見える街が紅あかく照らされている。人の活動が少なくなった今の地方都市、その赤が街を死んでいるように見せている。見入っている時間はない、急いでホームを後にする。
目的の地へは船便しかない。日暮れも迫りその日の便の残りが少なくなっているので、足早に乗り場へと向かう。
「すいません、呉島までお願いします」
「はい、かしこまりました」
リニアとは違い有人のチケット売り場。手際よく渡される紙のチケットを受け取り船着き場へと向かう。
桟橋から見る海には陽が水平線に浸かりかけている。遠くに今から向かう島がぼんやりとだが見える。幻のように浮かんでいるがそれは間違いなく存在している。
「お、にいちゃん、また来たね」
船員の一人が自分に気付いて声を掛けてくる。定期的に来るため顔を覚えられている。
「お久しぶりです、また来ました」チケットを渡す。
「来れるうちはまだ日本が生きてるって証拠だ。さぁ乗りな、もう出るよ」
「ありがとうございます」船へと乗り込む。
窓際の席に座り海を眺める。乗船する者はほとんどいない。波もない風もない、非常に穏やかな海。しかし今渡るこの海のこの水底には、何万という人が眠っている。
「間もなく出港します。揺れますのでご注意ください」
1時間ほどの船旅、陸に降り立つまでもう少しかかる。
港を出てしばらく、船窓越しに海を眺める。所々に島だったものの跡がある。頭だけ微かに水面から出している部分が陸だった名残。場所によっては建物の残骸が水底に見え隠れしている。今自分がTokyoに住んでいて、こうでもしなければ目にすることのできない光景。人が死んだ証拠がそこにある。
目的地の『呉島くれしま』は、旧呉と江田島の辺りに残る島で、消え去った両都市の名前を合わせて命名された島。観光で行くような島ではない。残る島民も少ない。ここに行く人間には決まった目的がある。
見飽きた景色から目をそらし、携帯端末を開く。そして一枚の写真を開く。そこに写るのは自分ともう一人、小さな女の子。
「ルリ、元気かな」