第2話
会社を出てすぐの無人バス乗り場から自宅方面行に乗り合わせる。時間にしてまだ昼を少し回ったばかり。中心部と離れたこの地域の乗客は少ない。15分程度ではあるが空いている席に腰かけ自宅を目指す。
「Tokyo」と呼ばれるこの街。いや、島か。21世紀前半まであった東京と呼ばれる日本の首都と同名の街ではあるが、様相は異なる。近代的なのは変わらない。少し遠くを見ればビルが立ち並び、大都会のような姿を見せる。今走っているところも、以前「下町」と呼ばれたような姿ではなく、きっちり区画整理されて非常に効率のいい街並みをしている。川が流れ、川岸には並木があり、人の往来がある。見れば何の変哲もない都会の風景だ。
でもここは地球と地続きではない。たまに襲われる地に足がついていない感覚。知っているからこそではあるが、知らずにここに生まれそれを当たり前として生きてきた者にとっては、そんなのどうでもいいことなんだろう。川岸では老人とその孫だろうか、走り回っている姿がある。
自宅のある「トヨスエリア」に到着する。バスを降り歩いて数分の自宅に戻る。居住エリアであるここは、会社のあるツキシマよりもさらに閑静で暮らすにはちょうどいい。自分みたいな一人者が暮らすためのマンションも多い。だが自分は今は二人用の部屋を借りている。それには色々と事情がある。
カードキーを開け部屋に入る。すぐにでも駅に向かわなくてはいけないため、仕事の荷物を放り出し、旅行の準備をする。観光に行くわけでもないので、着替えと最低限の必需品を鞄に詰め、朝に入り損ねたシャワーだけ浴びて、すぐまた部屋を後にする。玄関に飾ってある写真をちらと見て、扉を閉める。もうすぐ会いに行くからと目配せをした。
最寄りの駅からリニアモノレールに乗りセントラルターミナルを目指す。15分程度、日本各地につながっているリニアシステムの始発駅「Tokyo」それに乗りある人に会いに行かなくてはいけない。嬉しいが悲しくもある。行く時はいつもこの複雑な気持ちにさいなまれる。見慣れた窓の景色を見ながら揺られている。
「間もなく終点Tokyoセントラルターミナルです。右の扉が開きます。お立ちのお客様はご注意ください」到着を知らせる車内アナウンスが流れる。
「合わせて政府広報よりお伝えいたします。次の『TokyoNOA』の出港は7月17日午前10時、回航期間は三ヶ月を予定しております。寄港地は…」
予定より早くなる出港、早く出てよかった。十分帰ってこれる時間。席を立ち開く扉の前に立つ。ホームに入線し止まる車両。静かに扉が開く。
「さて、チケット買わなきゃ」
一度失われた日本の高速鉄道網。それも日本人はこの30年で改めて敷き直した。すべてリニアシステムの高速鉄道。大災害が人類を進化させた一つの例である。
「どちらまでお越しになりますか?」自動券売機の機械音声に尋ねられる。
「ヒロシマまで。一番早いので」
機会にカードを差し込み処理を待つ。
「承知しました。只今処理中です…。ご利用ありがとうございました」
カードが排出される。電子データですべてが処理されるため、旧時代のような紙のチケットは存在しない。
早いといっても出発まで30分ほどある、どこか軽い食事でも取ろう。発着フロアにあるカフェでサンドイッチとコーヒーを注文する。手際よく出てくる品を受け取り駅構内を見渡せる席に腰かける。
「1年ぶりか。変わってるかな」
手に取った携帯端末に写し出される一人の女性と並んでいる自分の写真。笑顔で写っているが、この笑顔に今回会えるか、保証はない。