第1章:AEGIS(第1話)
翌々日、俺たちは陸地に戻っていた。陸っていってしまうと語弊があるかもしれないがそういうことにしておく。
「ボーナスだー、やったー!」
飛び跳ねて喜ぶ面々。先日の隕石の査定が思いのほか、なんて言葉で片付けていいレベルではなく、目玉が飛び出るほどの額が付いた。そんなもんだから今社内は全員浮かれ気味というわけだ。
「すごいよ、これは。今までスイープされてきた隕石の中でもベスト5に入る大きさと質だね」
「そんなですか? そりゃ周りの船の視線も痛いや」
先日引き揚げた後帰港する際、すれ違う船からの直接見えたわけではないがなんとなく刺々しい視線の数々。スルーを決め込んで帰ってきたよかったと心から思う。
「そうだろうねぇ、零細企業が一気に持ち直すレベルだからね今回のは。しばらく休暇取ってもらってもいいよ」
「え、ホントですか? じゃあちょっと旅行しようかなー」
「どこに行くんだよ、もうじき出港だぞ」
「あぁ、それもそうか」
今俺たちの会社がある、立っているこの場所はもともと「東京」と呼ばれた都市。今では「Tokyo」が国際的な正式名称。ツキシマエリアにある隕石回収専門業者『くじら庵』、ふざけた名前だけどTokyoの中では業界トップクラス。20人程度のこじんまりとした会社ではあるが、優良企業である。そこで自分は回収の現場担当と隕石回収専用機『ロタネヴ』の専属パイロットをやっている。
「イサナ、お疲れさん。あんたのとこにも当然だけどボーナス入ってるからね」
「ありがとうございます。まぁそんな使う予定もないんですけどね」
「ロタネヴは大丈夫だったかい?」
「ええ、あんなだったのでお伝えした通りリミッターも外しちゃいましたし。後で見たら腕の駆動系がちょっと焼き切れたみたいな状態になってたんで。今姉さんに見てもらってます」
『ロタネヴ』、大手工作機器メーカーが開発した隕石回収用ロボット「Stardust Sweeper」通称SDS。水陸両用、潜水可能。若干の高さではあるが空も飛べる(と言ってもホバーで数メートル浮く程度)そいつに俺が勝手に付けた名前がロタネヴ。うちの技師が色々カスタムして市販品に比べて非常に性能が向上している。うちが業界トップクラスでいられるのもコイツのお陰かもしれない。
「社長、とりあえず二日くらい休みもらってもいいですか?」
「あぁ、いいぞ。なんだ結局なんか使い道でもあるのか」
「いえ、そうじゃないんですけど。ちょっと例の場所に…」
「あぁそうか、そうだったな。いいぞ、行って来い。ただ、出港までには帰ってこいよ」
「すいません、ありがとうございます」
「じゃあカイトスチーム、イサナも2~3日休むってことだから、みんな揃って休暇!」
「わーい」また揃って歓声が上がる。
「イサナ、どこいくの? もしかして」
同じ船『カイトス』に乗っている女性クルー『ナタネ』が話しかけてくるが、大よその察しはついているようだ。
「あぁ、いつものところ」
「そっか。じゃあ行ってらっしゃい、気を付けてね。今日もう行っちゃうの? この後みんなでご飯食べにいかない?」
みんな今日ばかりは羽振りがいいのだろう、振れる袖があるうちに振りまくるつもりのようだ。
「ごめん、今日の内にもう乗っちゃおうと思って、ごめんな。急いで駅に行かなくちゃ」
「そっか、じゃあ戻ってきたら行こうね」ナタネは手をグーパグーパー開いたり閉じたりお別れの合図。
「ごめんよ。それじゃあお先失礼しまーす」鞄を抱え会社を後にする。引き戸の古風な造りの社屋。手を振りながら足早に。
「お土産ねー」などなど色々と聞こえてくるがとりあえず聞こえないフリ。結局買ってくるのだが。
急がないといけない。いつ彼女が目を覚ますのかわからない。いつまで目を覚ましていてくれるかもわからない。だからこそ一秒たりとも無駄にしたくない。