第17話
「そっち片付いたか?」
「おわんなーい。あーもう、手伝ってよイサナ」
「自分の部屋だろう、自分でやれ。どうせ下着とか散らかってるんだろう。俺はロタネヴ見なきゃなんねぇんだよ」
「ケチー!」
陸揚げされたカイトス。航海から帰ってきたままの状態で散らかっていた部屋を片付けるナタネと、船のチェックをするトクナガさん。行政の書類手続きをこなしているコウタロウ。そして俺は部屋の片付けもほどほどに、ロタネヴのチェックに入ろうとしている。
「じゃあな」と、覗いた部屋に手を振りその場を離れロタネヴの元へと向かう。
「トクナガさん、俺ロタネヴの方いきます」
「おう、頼んだ」
操舵室に一声かけて返事をもらいデッキに出る。こちらも固定された状態のSDS、ロタネヴは俺が勝手につけた名前。点検に移る。
操縦席に滑り込みハッチを開けたまま火を入れる。静かに立ち上がる機体。コンソールが光り様々な情報を映し出し始める。機体情報を表示させ、危惧していた椀部の状態を確認する。案の定イエローシグナルが灯っていた。
「やっぱり。最初片手でやっちまったのが祟ったか」
前回の引き上げの際、重さとしては十分、この機体スペックの引き揚げ許容範囲ではあったが、急いだあまり片手で一度キャッチしてしまった。その際受けた違和感の正体はやはりこれだった。
寄港時は何ともなかったが、今になって不具合が発生している。しばらく使うことができないが、陸に上がってしまっているのが不幸中の幸い。社のメカニック担当に報告を入れて修理を行わなくてはならなくなった。
「どうですか、ロタネヴ」
事務手続きが終わったのか、コウタロウが操舵室のインカムを使ってロタネヴ内に話しかけてくる。
「あぁ、ちょっと不具合がある。でもそこまで大したことじゃない。すぐ直ると思う」
「そうですか。高くつかなければいいんだけど」
「この前の稼ぎからしたら微々たるもんだろう。必要経費って考えればいいじゃん」
「故障がないにこしたことはありません」
「まぁそうだけど…」こちらの返事を聞く前に切れてしまう通信。
「ほかは、大丈夫そうかな」
十分程度で全システムのチェックが終わる。ハードの細かいチェックは後日専門家にお任せ。
故障箇所のデータを携帯端末とリンクさせ、社内サーバーへと転送する。これで自戒出勤時に確認してもらうことができる。口頭でももちろん伝えるが故障個所に関してはデータで見た方が早い。
火を落とし操縦席から上がる。時間にして十五分程度、船室方面に戻る。操舵室にいる二人に「何か手伝うことは」と声をかけるが特にないとの返事。むしろ、静かになってしまったナタネの様子を見に行ってほしいとのこと。死んではいないだろうが、部屋の片づけは終わっていないだろう。冷やかし半分拝み倒されたら手伝う気半分で覗きに戻る。
「ナタネ、おわったか」開いたままの扉から中を覗き込む。
「…」
「ってないよな」
聞くまでもなかった。散乱した私物。ベッドの上でうつぶせになりギブアップの様相を呈している。
「…手伝え」枕に顔をうずめたまま、聞き取れる限界の発音で泣きが入る。
「やっぱりそうなるか」
陸ではそうでもないのに海の上だと途端にがさつになるこの女。仕事のあるから手が付かないのはわかるが、ここまで明確に差が出るのも珍しい。
結果、散乱した本、服、下着などなど。男が手を付けてはいけないものまで一緒になって片付ける羽目になる。そうでもしないとこの後の自由時間が削れてしまうのは目に見えていた。