第16話
今は2088年、直に21世紀も終わる。俺らみたいな若い世代はとうとう22世紀の人間となるわけだ。日本では人口減少が叫ばれた21世紀初頭。計算通り2030年代にかけて徐々に人口が右肩下がりに減り始めた。さすがに国も危機感を覚え色々な対策を行い、その後しばらくして回復に転じた。
しかし…
―西暦2050年―
21世紀も折り返しを迎えた年、何の前触れもなく地球に無数の隕石が降り注ぎ始めた。大国の宇宙開発機関も予見できなかった為、人類は何の準備も対策も出来ずにその襲来を受け入れた。いや、早めに気付いたところで何もできない規模ではあったらしい。勝手に悪者にしてはいけない。
手をこまねいて宇宙から降ってくるそれを人類はただ待つしかなかった。人によっては少しでも高いところへ逃げようとした者もいたらしい。先人の言い伝えを守ってのことだろう。一部の人間は核戦争用のシェルターに籠こもった。だが当然すべての人間が入れるわけもなく、選民思想がいき過ぎた悪い例だと、相当の非難があったらしい。
だがそんな努力も、宇宙からのまさに天災を前にしては何の意味もなかった。陸も海も関係なく、人が住んでいるいないも当然関係ない。数多の隕石が降ってきた。
『抗う』という言葉が虚しくなるほどのものだった。些細な知恵も盾も、何の役にも立たなかった。神はこんな時に平等に、地球上の人類を死に追いやった。大国も小国も、大都市も小都市も、地位も名声も、存在したヒエラルキーの類は一切無視され、天は厄災をもたらした。いつしか人はその厄災を「メテオハザード」と呼ぶようになった。
「地獄絵図とはあのことだ」
生き残った当時を知る人からそう聞いた。自分が体験しなかったのは幸か不幸か。考えるべくもない。
「この厄災は増えすぎた人類を減らすための必然だった」
そんなことを唱える宗教家もいた。馬鹿げたことと大半は耳を貸さなかった。しかし、そうでも考えないと自分はどこへ向かえばいいか当てもなかった人も多かったこともまた事実。
最も大規模な落下は数カ月続いたらしい。それだけで人類を最盛期の四分の一以下まで減らしたのだ。どれほどのものだったのだろう。一部の映像しか見たことがないが、あれでは恐竜が絶滅するのも頷うなずける。それよりも圧倒的に小さい人類は、もっと簡単に短時間で数を減らせたに違いない。
数カ月の後、隕石の雨は収まりを見せた。身を潜めていた人類が地上に再び姿を見せたとき、以前の姿は残っていなかったそうだ。
人類が住める大地へ激減した。7対3くらいと言われていた海と陸の比率は、さらに陸の比率を減らし、一割五分ほどまでに減った。そこから人が住める場所となると、もう限られた場所しか残らなかったそうだ。今の時代、限られた土地に残った人類が身を寄せ合って生き延びている。
2050年の大規模な落下以降も隕石の落下は続いた。後からわかったことだが、隕石や彗星の通り道に地球の周回軌道が重なったことによるものだったらしい。仮に地球の公転を止めたところで無意味なことだったようだ。
人類はしばらく神に祈ることしかできなかった。箱舟を作ったところでどこへ向かえばいいのか、その漕ぎ出す海ですら的の一部なのだから。ただ滅亡を待つ。そんな絶望感すら人類には芽生え始めていた。
だが、人類には知恵があった。昔かじった禁断の林檎はここでも人類に新たな知恵を授けた。元から生っていた果実ではなく、降ってきて地に堕ちた果実に目を付けた。
回収された隕石の中に偶然、地球上では確認されていないエネルギーを生成するものが含まれていた。これが人類を延命させる最大の武器となった。
『Meteo-Laメテオラ』と名付けられたその宇宙由来の存在。天からの贈り物に人類は歓喜した。
「まだ我々は生きることを許された」今地球を守っているシステムを作った科学者が言った言葉だ。
今地球の遥か上空に浮かんでいる隕石自動防御システム『AEGIS』と呼ばれる存在。これがなかったら今頃地球という言葉を発する者はおろか、地球そのものがなくなっていたかもしれない。
自分には詳しい構造のことまではわからないが、現在空に浮かんでいるアイギスが、宇宙から降ってくる隕石をその発生するエネルギーシールドで粉砕し、地表への落下を防いでいるらしい。今地球は一枚の薄いながらも強力な膜で覆われている。このTokyoのはるか上空にも当然それは浮いていて、日々俺たちを天災から守ってくれている。ただ、それは何かの犠牲のもとに成り立っているシステムと、自分は知っている。
そしてもう一つ、そのエネルギーによってもたらされたもの『NOA』と呼ばれる、世界にいくつかある人工島。その一つにTokyoもある。失った大地の代わり、人が安心して暮らすことができる島。世界各地に存在しているこの島は、今では人が生き残るために最も適したといえる住処となっている。
多くの大地を失ったが、俺たち人類は強引な共生を選び、今も地球上で生きている。