第14話
「すまん助かった。あー眠い、おやすみ」
バスで完全に寝入ってしまい、起こしてはもらうもののかなりフラフラの状態。部屋まで付き添ってくれたナタネにお礼を言って部屋に入る。同じマンション住まいはこういう時に助かる。
「明日ちゃんと起きるんだよ」
「後付けで来るっていったお前にゃ言われたくないけど、わかった。やばそうだったら起こしてくれ」
「しょーがないなぁ」しぶしぶ承諾してくれるナタネ。
「あれ、そういえば。ノアの出港早まったっていってたけど、17日じゃないのか?」
ヒロシマに出かける前に「17日出港」と確かにアナウンスがあったのを覚えている。いつどこで変更されたのだろう。
「イサナが向こうに行ってる間、今朝発表があってね。ハリケーンの影響を受けそうだから14日にするんだって。だからちょっと色々あわただしい」
「今日が10日だから…、明日入れて4日か」
「そ、駅混んでなかった? 地方からの人の帰省や物資の搬入なんか一気に来たからゴミゴミしてたと思うけど」
「寝ぼけてて気づかなかったな」
「さっさと寝ろ」力強く扉を閉められる。もうシャワーを浴びる気力もない、明日の朝でいい。リビングのベットに倒れ込み、布団もかけずに仰向けで寝に入る。
カーテンも閉めていない窓の外には、川岸に咲いている桜が見える。春しかない今、桜は万年咲くようになってしまったらしい。あっちが散ればこっちが咲く。いずれかの種類が常に咲いている。花を付けたものと葉だけのものが夜の川辺で共演している。
「夏って何が咲くんだろう…」
そんなことを考えているうちに眠りに落ちる。その夜、図鑑でしか見たことのない向日葵の夢を見た。
「もしもーし! 起きろー!」
「…うっせぇ。もうちょっと静かに」
翌朝、勝手に部屋に上がり込んできたナタネに、引っぺがす布団はないが隣で大声でどなられ目を覚ます。
「10時会社集合で、今もう9時過ぎてるんですけどー」大声と合わせて体を揺すられる。もう十分に目は覚めた。ナタネの手を払いのける。
「ありがとうありがとう。んあー、眠い」
「40分のバス乗らないと間に合わないぞ。ほらシャワー浴びて」ベッドの上、起き上がった状態にバスタオルを顔に投げつけられる。
「ん…」寝ぼけたまま上半身に着ていたもの、昨日帰ってきたままの上着を脱ぐ。
「…私は部屋で待ってる」脱ぎだす姿を見て部屋を出ていくナタネ。
「海の上じゃ見慣れてるのに、今更照れるかね」
30分後、準備を済ませてナタネの部屋へと向かう。
「お待たせ」
「よし、行こうか」
マンションの外に出ると、向こうから乗る予定のバスが見えてくる。急いでバス停まで小走りで向かう。途中並走する感じになってしまい、若干全力疾走。無事乗ることができた。
「よし、ちょうど」
「ギリじゃん」息を切らしながら文句を言ってくるナタネ。ちょっとだけ申し訳ないと思ってしまう。
「お昼までには終わるかなぁ」
「ほかの船次第じゃないか。混んでなけりゃいいんだけど」
「終わったら買い物行こうよ、シブヤまで」
「別にいいぞ」
「ご飯奢ってね、昨日の夜の分」
「え、もう?」どう考えても昨晩より高くつく。これを狙ってのことなのか、策士としか思えない。
遅れることなく5分前には会社そばに到着する。バスを降りると視線の先、会社の前にはすでに数名の人間が待っている。
「おはようございます」
「おう、おはよう」
「おはようございます」
技師のトクガワさんともう一人、昨晩会社で待っていた事務の『エナ・コウタロウ』がいた。そしてもう一人。
「おはよー。あれ、社長まで」
「おはよう。すまんな、せっかくの休みに出張ってきてもらって」