第2章:TokyoNOA(第12話)
自然の土から無機質な大地へと戻ってくる。まだ日も暮れて間もないこの街は、人の往来が激しい。自分と同じように出港に合わせて各地から戻ってくる人、日常をこなし自宅へと戻っていく人。週末の夜、まだこれからとどこかへ繰り出そうとしている人、様々だ。
自分も自宅へとまっすぐ戻りはせず、途中最寄り駅を通り過ぎ会社へと寄ることにする。Tokyoの郊外にある昭和という時代にタイムスリップしたような建物が自分が世話になっている会社。駅から歩いて5分ほどすると『くじら庵』と書かれた、こちらも昭和にありそうな木造の看板が見えてくる。暗くてちょっとわかりづらいが、街灯に照らされてかろうじてわかる。
休暇ということになっていたにも関わらず、数名の人間が自分の帰りを待っていた。いや、自分を待っていたのか土産を待っていたのか。恐らく後者に違いない。
「へぇ、そんなこと頼まれたんだ」
「研究のためとはいえ、御法度なことをサラッというあたりさすが学者先生といったところかな」
「できる範囲で、とは言ってきましたけど」
「でもそれで色々解決できるなら少しくらいは目をつむってもいいよね」
「んー、俺らがお縄にならない程度、仕事に支障が出ない程度にしないといけないけど。こらナタネ、食い過ぎだ」
「いいじゃん。みんなの分はまだ山ほど残ってるんだし」
「オレはそんなにいらんぞ。これ以上太ると医者から何言われるかわからねぇし」
「トクナガさん、こっちならどうです?」
年配の整備士のトクナガさん。どの時代も年を取ると同じような注意を医者から受けるらしい。甘くない、薄味の土産を差し出してみる。
「お、そっちならまだよさそうだ。どれ」
「あ、あたしもー」
「お前はダメ、それで最後」食い過ぎには自重を促す。
「ケチー!」
「うるせぇ」
「あ、そうだイサナさん。明日って時間ありますか?」
「ん? あぁ、特にすることもないけど。なんかあった?」
「ええ。実は出港が早まったことで陸揚げの日程も明日にしなくちゃならなくなったんです。もしお暇なら立ち会ってもらえないかなって」
出港に合わせて港に停泊しているうちの船を陸揚げしなくてはならないようだ。行政が勝手にやることではあるが、一応自分たちの稼ぎを生み出す大切な船。誰か持ち回りで必ず立ち会うことにしている。
「そういうことならいいぞ。どうせすることもなくゴロゴロしてるつもりだったし」
「イサナが行くならあたしも行こうかなー」
「ナタネさん、さっき面倒だって断ったじゃないですか」
「気が変わった。ってかヒマだったらイサナ誘って遊びに行こうと思ってたから。終わったらそのままどこか行く」
「お前。俺の予定無視かよ」
「同じマンションのよしみだ。いいじゃないか」
「仲いいな、お前ら」
「まぁ、付き合いも長いので…」
「さて、そろそろお開きにするか。片づけて帰ろうや」
トクナガさんの一本締めでお開きになる土産開きと土産話の集まり。皿と湯飲みを片付け電気を消し、外に出て会社に鍵をかける。
「じゃ、また明日な」
「お疲れ様です。わざわざありがとうございました」
トクナガさんともう一人の同僚に手を振り別れる。こっちもナタネと二人、バス停に向かって歩きだそうとする。
「ねぇイサナ」ナタネから声が掛かる。
「ん?」
「このまま帰る?」
「そりゃまぁ、こんな時間だしそのつもりだけど。どうかしたか?」
「ちょっと寄り道しない?」