第11話
本土へ向かう帰りの船の中、アマクサ博士から頼まれたことを思い出す。
「お願いってなんですか?」
「あぁ、可能ならでいいんだけど。隕石を持ってきてほしい」
「隕石?」
「うん。イサナ君の仕事は隕石回収業だったよね?」
「はい、その通りです」
「だったら、隕石の欠片くらい何とかならないかな?」
「それくらいだったら、可能な場合もあります」
「そうか、よかった」
「でもなんで?」
「ああ、理由を言わないとね。これは仮説なんだけど…」
容易いといえば容易い。実際一番最初に隕石に触れるのは自分とロタネヴだ。欠片くらいだったら付着することもあれば、クズ隕石の場合は二束三文の価値にしかならないケースもある。落ちてくる全ての隕石にMeteo-Laが十分に含まれているとは限らない。毎日のように地上に降ってくる隕石群。それを手に入れたいのなら現場の人間に頼むのが最も早い。博士の頼みは下手な企業のコネを使うよりよっぽど賢い。
「考えてみりゃ、これもそうだったんだな」
腕に巻いているブレスレットを見る。これはそれこそクズ隕石を加工して作った物。エネルギーこそほぼ含まれていなかったが、見た目が良かったこともありその手の業者に売り渡した。その際自分にもと個人的に作ってもらった。渡しておけばよかったかな。
ただし、今隕石は国際的に資源として管理されており、回収業者に対しても厳格なルールのもと回収を指示している。欠片とはいえ業者が勝手に持ち出すことはご法度になっている。まぁグレーな部分で横流しされているクズも多いのは事実だが。それこそ自分は落ちてきたものをいの一番に触ることができる人間だ。やってやれないことはない。
「なるほど。細かいことまで理解はできませんけど、なんとなく言いたいことはわかりました」
「話が早くて助かるよ。もちろんうちも研究で手に入れることはできるけど。現場の方がいろんな種類が手に入るかなって」
「確かに。どこから来てるかわかりませんもんね」
「そうなんだよ。だから少しでもサンプルは多い方がいいと思ってね。なに、急がないよ。次に来る時で当然構わない。そもそもノアが出てしまうと渡しに来ることなんてできないしね」
「わかりました。できる限りやってみます」
Tokyoに戻ると、直出港が待っている。ここに来ることができるのは早くて三か月後。来るかどうか定かではないが、頼まれたことは記憶しておく。自分のため、ルリのためになるなら少しくらいなら罪を犯そう。もしかしたら世界を変えるかもしれないのだし。
「まもなくヒロシマです。お忘れ物ないよう…」
到着を告げるアナウンスが流れる。席を立ち外の展望スペースへと向かう。近づくヒロシマの港。振り向くと遠く水平線に消えかかっているアイギスシステムの塔が見えた。
リニア、Tokyoのエリア循環路線を乗り継いで夜8時前に会社に到着する。戻ると伝えたところ、数名が待っているとのことだったので顔を出すことにした。
「ただいま帰りましたー」
「お土産―」
お出迎えより先にそっちかよ。