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蒼穹と蒼海のオラトリオ  作者: 小鳩
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プロローグ

 現在、2088年7月某日、太平洋上。


「おはようございます。国際海洋公共通信局が2088年7月7日、午前10時をお知らせします」

 デッキに置いたラジオから、日本語に自動翻訳された時を知らせる声が流れてくる。

 「隕石落下予報です。アイギスシステムからの算出により、旧サイパン島北100km近辺が落下予測地点とされています。数分以内に海上に到達する見込みとされています。近海を航行中の船舶は十分ご注意ください。繰り返しご案内します…」


「だってさ」

「よっしゃビンゴ。さて行きますか」

「はっしーん! いくでイサナ」

 仕事だというのに気楽なうちのクルー。ため息交じりに持ち場につく。


―数十分後―


 同太平洋上


「ねぇ、レーダーどんな感じ?」

「もう捉えてるよ。んーと、ここから20キロくらい先かなぁ。割と近いとこに落ちそう。そろそろ見えるんじゃない?」

 船のクルーが口々に目的の物体のことで会話をしている。それを一人甲板上で自分は空を見上げている。

「ねぇ、イサナー。なんか見える?」

 船内から声が掛かる。声を掛けられるまでもなく既に真っ青な空を見上げている。遠く空の向こうにかすかな光を肉眼で捉える。アイギスが消しきれなかった隕石だ。

「あぁ、見えた。多分あれだ。方角ちょい北北西に向けて、そのまま直進する感じでいいと思う」

 降ってくる隕石の残存物、その落下地点のおおよその目安をクルーに伝える。

「りょうかーい」そう声が聞こえると同時に、船が少しだけ針路を変える。そして速度が上がる。

「周りにほかの船いそう?」

「いるけど、うちが一番近いかなー。今回は独り占め出来るんじゃないかな。おっきいといいなー」

「ラッキー、急がなくてもよさそうだけど念には念を入れておこうか。イサナ、いつでも出れるように準備だけしといて」

「了解、もうほとんど出来てるよ」

 甲板から隕石捕獲用の専用工作機へと移動する。コクピットに乗り込みハッチを閉め機体に火を入れる。立ち上がる全方位のモニター。そのモニター越しに何処までも広がる海原を見ている。そして先ほど甲板で見た隕石を、改めて肉眼とレーダーで捉える。船は海面を滑るように走り落下地点へと急ぐ。

「もうちょいで着水しそう。イサナ出ていいよ!」インカム越しにそう指示がある。

「了解、急かすなって。『ロタネヴ』発進する」

「大漁よろしくー♪」

 声援に送られ勢いよく母船から飛び出す。目算で大体2km程度先に落下地点、母船よりも足の速いコイツなら数十秒の距離。落下地点近くに行くと先ほど見えた地点で海水が舞い上がりスコールのように降っている。

「落下地点到達。潜るぞ」

「急いで、今回の割と大きそう。沈んじゃうー!」

「もう潜ってるだろ。安心しろって、きっちり引き上げてくるから」

 潜水モードへ切り替え海中に沈んでいく隕石の後を追う。水面に衝突したことで若干速度を緩めた隕石と比較して、推進力がある分向こうの落下速度よりこっちのほうが速い。レーダーに映っている対象物との距離がどんどん縮まる。

「あった。でかいな」モニターで獲物を捉える。

「ホント!? やったー」

「アーム展開」隕石に近づくと同時に、捕獲用のアームで隕石を掴みにかかる。

「よし捕まえた! って重!」

 アームが隕石を捕まえた途端、その重さに引きずられ機体共々さらに沈んでいく。

「え、そんなに大きいの?」

「今までで一番かもしれないぞ。ちょっと無茶するぞ」

「壊すなよ。ちゃんと引き上げるなら許可する」

「今までミスったことあったか? 信用しろっての」

 許可をもらうまでもなく既に機体の出力をレッドゾーンまで持っていく。出力が上がり一気に機体が安定する。そして一気に浮上シークエンスへと移行。

「行くぞ、キッチリ捕まえろよ」

「そっちは任せてー」

 隕石を抱えたまま海面へと飛び出す。そして母船を視認する。準備が出来ている捕獲用のネットへめがけて隕石を放り投げる。「ズン」と言う鈍い音とともに船が揺れる。どストライクでネットに命中。引き揚げ成功。

「うわぁ、これすごいんじゃない? 重さは?」

「えっとね…うわ、1208kg! 信じらんない」

「1200? それが破砕されずにシールド素通りしたのか?」

「多分、アイギスのシールドのいっちばん薄いところ通ったか隙間潜り抜けたんじゃないかな。本来なら普通に落ちておかしくないサイズだもん」

「陸地に落ちていたら一大事だな。海でよかったよ」

「何はともあれやったー!」

「これは明日はご馳走かな」

 船上で喜ぶクルー達。しかしこちとらリミッターを外した反動で機体が機能低下を起こしている。海面を力なく漂いちょっとずつではあるが母船から離れていく。

「おい、さっさと引き上げてくれ。今度はこっちが沈んじまう」

「あ、ごめーん」と言いながら引き上げ用のクレーンをスルスル伸ばす。

 ハッチから外に出てクレーンを機体に引っ掛ける。太陽の光を遮るものが一切ない大海原のど真ん中。早いところ陸に足を付けて食事をしたい。

「おっと、他の船がワラワラ来たよ。おこぼれで頑張ってねー。じゃあ我々はドロンしましょう」

「ドロンって…」

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