三話 『殺戮現場』
長らくお待たせしました!その上短いです。すみません!!!
色々あったのです。色々。
これから執筆スピード上げていくつもりですので……本当にごめんなさい。本当に。
近いうちにウーサーに関する建国記を外伝として書くかもしれません。本編とは全く関係ありませんしね〜。
では、どうぞ。
アシュリーと別れて少し経った時、ゴブリンの生息地を知らないことに気づいたプティは、人々が忙しなく動き続ける中ポツリと立ち尽くしていた。
生息地を教えてもらっても迷わずたどり着ける自信は、もちろんないプティが取れる策など、なかったのだ。いや、あるにはあるがプティには思いつくことができなかった。孤独故の弊害というやつだ。特段孤独というわけでもないが、親しい知り合いと言ったら一人もいない。少なくとも、彼はそう考えていた。
どうしようかな。呟いていると、ふと道が大きく開く。何かなと思い周りを真似してたちのいてみると、野太い声が大きく響く。
「静粛に!アーサー皇太子がお通りになられるぞ!」
それと同時に現れた巨大な立方体の乗り物。それも、人が動かすタイプではなく、自動で動くタイプの、つまり、魔道具だ。魔道具の内部を知りたい好奇心を抑えながらプティは思考する。
「皇太子ってことは一番上の継承権だよな……アーサー、アーサー。じゃあ、現国王は誰だろう?」
生憎プティはこの国に入ってまもない。現国王の名前すら知らないし、この世界の事情にもかなり疎い方だ。仕方なしに、近くにいるものに声をかける。
「なあ、現国王って誰だ?」
「……あ!?あ、ああ。最近きたやつか。現国王はウーサー=ペンドラゴンだ。覚えておけよ。」
少し高圧的な物言いだが、それだけ大事なことなのだろう。今回はともかく、他の機会で他国へ向かう場合は何かしら調べてから行こう、特に王の名前はと心に刻む。先ほどの男性はすぐに離れて行ってしまったが、少しだけは感謝してもいいだろう。少しだけは。
呆然と神輿を見ていると、皇太子と思われる男性が顔を出し手を振る。瞬間どっと周りが湧き上がった。所謂偶像的な立場なのだろう。実際、容姿端麗だ。国民受けしそうなタイプの。簡単に言ってしまえば神と教徒みたいなものだ。彼彼女らにとっては姿を拝めるだけでも満足なのだろう。
飽きた拍子に本来の目的を思い出したプティは再び焦る。どうしたものかと。迷いに迷ったプティは結局、ギルドに戻ることにした。
「すみません。依頼できますか?」
プティが声を上げるとギルド員がせっせと、忙しなさそうにこちらへ向かってくる。腕には大量の書類が入った箱を抱え、今にでも落としそうなほどに、そう思わせてしまうほどに不安定であった。
「はい!なんでしょ……っう!」
慣れてないのか、そもそもそういう力仕事(?)をするような立場ではないのか、とても重そうにしている。顔もあまりの重さに歪んでおり、眉間が寄っている。消えない年齢に見合わない皺が消えなくなってしまいそうだ。
書類の入った箱をプティはさりげなく持ってあげると、要件を伝える。
「このままじゃ話をしにくそうだったからね。ちょっと案内人を雇えるかな?」
「ありがとうございます!案内人ですか。どこに?」
どこに、そう言われて地名を知らないことを思い出した。プティは端末を操作し、例のゴブリンの画面にする。生息地は『マトロフ山脈』というらしい。
「マトロフ山脈という場所ですね。」
「マトロフでしたら転移することができますが、どうしますか?」
どうやら目的地へは転移装置が繋がっているらしい。今までの行為が無駄足だと知り、脱力感がプティを襲うが、思えばそれゆえの経験というものもある。解釈次第では悪くない結果であった。
「お願いします。」
ギルドの関係者である証、登録証を渡す。
「確認しました。では、どうぞ。」
青い燐光を放つ円形の装置に乗り、起動の呪文を唱える。
「よし。転移。」
プティは青に包まれた。
(*)
転移装置による移動が終わり、随分と入り組んだ森林に飛ばされる。山脈ではなかったのだろうか。目的のゴブリンが居るとされるマトロフ山脈だ。細かい位置、数はわからないが、大量のゴブリンを探すだけとなった。
プティは最初と比べ随分薄着であった。一般からしたら自殺行為なのだが、彼の剣は服が軽く、動きやすいことを前提としているため、こういった形になっている。
「自分から敵を探すなんて久しぶりだな。」
彼はぼやく。
敵地を回避するのはともかく、自ら敵地を探すことは随分と久しぶりになる。こちらで換算するとそうでもないことは明白なのだが、飽くまでプティが体感した時間が、そういうものだからということだ。
「索敵飛ばそう。」
軽く呟くとプティを中心に半透明の領域が展開される。彼の索敵はある意味不完全で、魔力構築から三十秒、目視できるまでの密度となる。そのため、対人戦もしくは知能のある生物との戦闘などでは、とても扱いにくい代物となる。
しかし、今回の相手は魔物だ。人の目には多少入ってしまうだろうが、後々誤魔化せるし、気にする必要もないだろう。
「引っかからないなあ……。」
索敵を開始して一分と経たずに、彼は引っかからない事に疑問を抱く。そもそも、彼の索敵というものは即効性があり……といったらおかしいが、とにかく回るのが早い。そのため、十秒は掛からずこのフィールド、つまりマトロフ山脈の索敵が終わるのだが、それでもゴブリンの集団、もとい敵の集団は引っかからなかった。
だとすれば答えは自然と導き出される。
「地下、もしくは洞窟の中、か。厄介なことになった。地上を闊歩していれば簡単な話だったんだけどね。」
本当にそうなのだ。プティは陸空、つまり地上以上で、その上拓けた場所を得意とする。多少入り組んでいても誤差で済ませられるが、洞窟、地下等はどうにもならない。本当に自力で探すしか方法はないし、見つけたとしても実力が予想以上の場合は地上に引っ張り出しでもしないと負ける可能性が大いにあるのだ。
プティは確かに強い。しかし、万能でもなければ、圧倒的な最強でもない。決定的 、どんな相手と、どんな地形、状況の変化を気にせずに勝てるほど、強くない。ラプラスの教典を手にするまで、どうしても自分の命には慎重にならざる負えなくなる。
「独りで続けるのも辛くなるなあ……。もっと、堂々と行進してくれてさえ居れば僕はある種のぼっち体験をせずに済んだというのに。始めてそんなに経たないけど欝になりそう。……魔物の気配がするね。」
独り言をしていると、敵と思われる気配をプティは感知する。腰に差している二刀の内、片方を抜き取り、自然に構え、加速する。
「気配が強いな……。厄介事の予感がするよ。」
そこら中にいる雑魚とは比べ物にならない存在圧にプティは冷や汗を流す。もしプティでも対応出来ない敵の場合は、良ければ逃げる。最悪、指針を進めなければならない事態になるかもしれない。
ラプラスの教典を手に入れるために力を温存しなければいけない。今の彼は大きな制限があるのだ。
「……っ!?」
どれだけ走っただろうか。既に前の場所の面影はない。瞬間プティでも身構える程の突風が起きる。地面は草原が強く踏み込まれ、雑草が退かされ、土が剥き出しとなっている。後ずさったのだ。
「やばいよこれは……っ!逃げるが勝ち!」
言うと同時、プティは一目散に逃げ出した。真反対に加速したのだ。相手が悪過ぎた。
逃げ切れるかと思っていたのだが、その考えもすぐにかき消される。プティを追っているのであろうそれは、
――巨大な図体をした、成熟した翼竜であったのだ。