序話 『いつかの蒼天』
二章のスタートです。相変わらず話が見えません。今回は止む終えなく短くしましたが、(描写が描写なので)次回は長くなります。遅れてすみません。どこから始めようか迷ったもので。え?プロットはありましたよー。プロットの時点で開始地点がいくつかあったんです。あれ、それ、本当にプロット?(笑)
十年の月日が経った。蒼天が支配する荒野の中心、子供でも跳び越えられそうな低く、丸く、不自然な石垣がポツリと。その中に佇む少年と少女。銀髪を座った状態であるならばだが、地面にまで垂らす少年、プティ=エム。気だるそうに短い黒髪をくるくると弄り回す少女、沙野 天。
彼らはどこを見て、視て、診て、覗いていたのだろうか。虚ろな四つの目は延々と蒼天を見つめ、そこに何かあることを確信しているようにも思える。
「もう、十年だな。」
目線はそのまま、限りなく続く蒼天を眺めたまま懐かしむような声で喋り出した。その言葉に意味はないだろう。天、彼女はそれに応えることはなく、ただ笑み——と言ってもそれは喜ばしいものにも見えず——を浮かべただけだった。
そんな様子、どうでもいい。気にする様子もなくプティ、彼は続ける。
「あれから十年も経った。困惑して、混迷して、最後の最後に辿り着いたこのどこまでも続く蒼い空。僕は嬉しさと同様に、悲しみと、虚しさが込み上げてくるんだ。」
辛かったのだろう。楽しかったのだろう。プティの表情は複雑で、何かを訴えかけるような、それとも追い込まれたような。今でも涙を流してしまいそうな程に彼は脆く、淡く、泡沫に消えるように、彼方へ吸い込まれるように。
天は今も困惑し、混迷しているのであろう彼を、顔色一つ変えることなく、敢えて言うならば全てを許容してしまいそうなほどの、聖女がかった何かがある笑みで、蒼天を彼自身だと見立てている。しかし、見守ることはあっても手を出すことはないのだ。
「天、僕は正しかったのかな。僕はここに来るまで、何十人も殺したよ。家族に、親友に、かけがえのない存在だって、ここを目指すために、全て捨ててきたんだ。」
プティの目はすでに天を見ていない。天を見ていた。だんだんと全てをを掠め、存在の消滅を誇張するような姿を、じっと見つめていた。
「そして、天。君も僕は捨てた。でも、僕は生きているよ。」
足からだんだんと粒子となって打ち消えていく『友』の姿を目に焼き付けるように、うっかり涙を流さないように、天の目を逃さない。
「『ラプラスの経典』は必ず持ち帰る。その時はきっと、僕もそっちにいるんだろう。じゃあ、また後で」
そうしてプティの作り出した天という幻影は消えた。最後に悲しそうな顔をしていたような気がするが、気のせいだろう。彼は石垣を剣の一振りで崩し、小さな世界から飛び出した。
剣の柄を潰してしまいかねないほどに握りしめ、人知れず静かに涙を流す。
「さようなら。彼、なるものに永遠の幸福を」
なんだ、そんなものか。最後に死者への弔いの言葉を小さく発すると、もう後ろは見ない。振り向かない。
プティは右手で涙を拭い去ると、右ポケットに手をぶち込み、小さく折りたたまれた紙を取り出す。彼に先ほどまでの面影は、悲しみを伺わせる雰囲気は、微塵も残ってはいなかった。そこにあるのは微かな希望。選択肢は一つしかない。