三話 『正しい何か』
一章終了です。
「逃げろ!」
そこは何も描かれなかった世界。語り継がれもせず、嘲られもせず、ただ日を浴びることのなかった世界。たった一人、人間を失っただけでこの世界の歴史は止まってしまった。気持ち悪いくらい、停滞している。
こんな世界、ひっくり返してしまおうか。そんな子供のような言い分で、かつての面影は消えてしまった。どこだろう。ここは一体どこだろう。
そしたら世界の外から大きなナイフが飛んできた。それは紙くずをゴミに投げ捨てるように容易く、容易に少女の頭を貫いた。
「……っ!『連撃』開始!」
男は死んでしまった少女を顧みることなく、ただ一人でも生存者を増やそうと『最低限の犠牲』。そんな甘い言葉の囁きに負け、誰かを殺して誰かを生かす指示を、平気そうに飛ばす。
しかし、そんな指示を聞いた者たちに、悲愴はなかった。これでまた一人助かる。そんなことでも考えているのだろうか。次は自分が死んでしまうかもしれないと自覚していながらも、そんな死も悪くないと思う。
気まぐれな『外』の攻撃に対応するために、人は人を差し出す。そうするだけで一人助かる。そしてまた死ぬ。助かる。死ぬ。助かる。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。助かる。死ぬ。
——あれ、なんだっけ。