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ラプラスの狂典-Laplace of Record-  作者: その手紙は何処へ行く/今西三田郎?
続きの譚『現実構築<リアリティコンストラクション>』
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十四話 『竜殺の刻——騎士モルドレットの奮闘』

中間テストが迫り、時間が取れませんので、分けての投稿になります。十一月中盤を超えるまで不定期。超えたらいつも通りのペースに戻ります。よろしくお願いします。

 剣を振るう。敵の猛威が迫る。そしてまた一人死ぬ。弓を射る。敵の咆哮が来る。そしてまた一人死ぬ。戦場は、これの繰り返しだ。何かをし、何かをされ、誰かが死ぬ。殺せば殺される。殺さなくとも殺される。万物は地へと還る絶対の盟約が存在する。何をしなくても死ぬ。何かをしても死ぬ。

——どうして人は絶望しない。

 これはモルドレットの信念である。この信念が人の強さを表し、人の強さがオルドレットを動かしていた。だが、それも最後だ。モルドレッドは死期を悟っていた。そして、『これ』が最後の仕事になるだろうということも。

 

 ここは、戦場だ。マトロフ山脈。制御から外れ……いや、考えることを忘れた竜が暴走している場所。そして、騎士モルドレッドの死に場所でもある。千と一を連れて、腰には王からの預かり物、竜殺しの剣『エクスカリバー』を携え、竜の元へと向かう。

 

「モルドレット様!敵の居場所がわかりました。マトロフ山脈南部。このまま真っ直ぐ行けば、否応なしに対峙することとなるでしょう。」

「相判った。であるなら、ここで別れよう。」

「ここで、ですか?」


 若人は訳が分からず首をかしげる。優秀ではあるが新兵だ。まだ経験も浅く、情報収集能力は高いが、理解力は合理に傾いている。だが、戦場にそれは通用しない。人の心は合理的に動かないのだ。確かに、後に別れた方が連絡もとりやすく、体制も整えやすいだろう。なるほど、合理的だ。しかし、その間に竜が動いてしまったらどうする?あそこは足場が悪い。所々に穴、窪みがあり、そこから隊列を変換するにしろ、うまくいくわけがない。では、今別れればどうなるのか。確かに一時的にだが連絡、回線が悪くなるだろう。一部隊は森に入る。しかし、優秀な、信頼できる指揮官がいる。戦歴の厚い者らだ。臨機応変に対応できるであろう。そのために、弓をもたせたのだから。

 

「お前はまだ考えなくてもいいことだ。今はこの戦場で生き残ることを考えながら、戦い方を学べ。展開せよ!」

「わかりました!では、自分は戻らせていただきます。また、後ほど。」

 

 戦いは、チェスではない。兵は自分の思う通りに動かないし、戦場も固定ではない。いつでも対等な兵力であるわけでもない。それ以上に、盤上のお遊戯と、現実の戦場の絶対的差異は存在する。それは、「殺意の有無」だ。ゲームで人を殺さない。何故ならば、自分が殺されないからだ。しかし、現実では殺さなければならない。生き残るために、他の人間を殺さなければならない。王への忠誠、というのは形だけのものだ。実際どうかは心が読めるわけでもないのでわからないが、そもそも民を信用する必要はない。裏切ることのできない状況を作ればいい。

 さて、人は何を求むる?安全か。食料か。はたまた緊張感スリルか。否。人は自分の欲求を果たせる場所へ向かうわけであるから、全て一つに定まるわけではない。ただ、大きな括りでまとめることはできる。そうだな、なんと言おうか。「願いの叶う場所」と言ったところだろうか。その願いが実現できるか、できないかに関わらず、人はより叶いやすい場所を選ぶ。風の噂、書物による情報等々。使える情報を使えるだけ、そして自ら望む未来に近い場所を。そう、国選びは、人生の引っ越しだ。それで叶うと気づけば、そこから逃げるわけにはいかない。そうでなくとも、他の国より良ければ、裏切る理由がなくなる。

 戦乱の刻、どの国家も目指すはこれであろう。現実はそうもいかないが、ウーサー=ペンドラゴンの並外れた能力がそれを可能とする。であるから、現在、スティールの人口はとどまるところを知らず増加し、生産力、戦力、国力共に比べられないほどに突出している。生憎にもスラム街は存在してしまっているが、これは仕方がないとしか言いようがない。そもそも、スラム街は前から存在していたものであるし、今更消す理由も見当たらない。誰もかれもが不幸になるだけだ。

 ともあれ、油断大敵。他国は虎視眈々とこちらを睨んでいる。少なくともアーサーが王位を継承するまでは、上層部に安心などという状態にならないだろう。何せ、幹部にしろ、近衛にしろ、死ぬときは死ぬ。国内での裏切りだって少なくはない。欲に目の眩んだ貴族が、ちょっとした暴動を起こしている。いい加減にして欲しいところだ。

 

 既に山頂をこえ、敵——原初竜の姿が見えてくる。禍々しい黒を全身にまとい、無差別に火を吐き続ける凶暴な容姿を持つ空飛ぶ蜥蜴。その姿は勿論、一般常識で語られる蜥蜴の姿の面影など、欠片かけらも存在していない。幸い、こちらあの姿には気づいていない。今ならば不意打ちも可能であるが、それは悪手というものだ。原初竜は物理攻撃のみ受け付ける。ここは弓の射程ではない。それに、どちらにしろ第一射を放つのはこちらではない。態々森を通らせたのだ。今の狂乱した竜が気づくことはないだろう。——さあ、もがき苦しめ、そして、死ね。

 

 

 

 

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