八話 『竜撃の調べ+++終編』
一周間ごとの投稿で、こんな中途半端な形ではなく、しっかりと執筆し、投稿することとします。
コンテスト締め切りも近づき、焦ってしまったのがまずかったのでしょうか。ペースは見出すものではないですね。
暗い空洞。その中灯る一つの光。それが段々と広がり、洞窟を大きく照らす。すると流るる音の正体、大きな川が見えてくる。終の見えない川は光に当てられてか多少光沢を持ち、神秘的な翡翠色で暗がりを消す。
光を灯しているのは精霊。魔法により『大気中』の魔力が尽きない限り使用し続けられる。これを聞いた際のプティの顔は、それはそれは滑稽なものであった。今まで体内魔力と体外剣気の合成によって魔法(魔技)を行っていたプティにとっては、驚きの事実であったのだ。
暗がりが消えたおかげか、道のそこらで屯する魔物たちの姿も見えてくる。その目は久々の獲物からかギラついており、とても理性を保っているようには見えない。一見みれば危機的な状況だが、三人は臆することなく進んでいく。
その様子が異様に見えたのか魔物たちも一部は警鐘が反応したのか姿をくらませている。それでも肉を砕く咀嚼音がすることから、共(魔物にも種類があるので同類とは一概にも言えないが、この場合は魔物を一括りにする。)喰らいをしているのだろう。外から獲物が来ることは滅多にないであろうから、弱肉強食のピラミッドができた上で魔物は減る一方と、時間さえたてば終わってしまう詰んだピラミッド。そんな知能があるはずもない魔物たちは、ここをいい狩場と勘違いして居座り続ける。三人にとっては迷惑極まりなかったが、人類全体を考えると得をしている。ありがたいくらいだろう。
それでも三人を血走った目で睨み続ける魔物が何十匹も存在する。これを全て掃討となると手間もかかるし、竜から逃げ切れる可能性も大きく減る。そのため、三人はある作戦、戦略を立てた。
戦略と言っても知能の低いものとの戦いであるため、そこまで苦労することはない。誰でも思いつくであろう方法を二つ挙げた結果、魔物の嫌がる臭い、魔物除けを使うこととなった。他のひとつは魔物を怯えさせるという意見であったのだが、今なった通り逃げたのは臆病(というより慎重)な魔物たちのみで、まだ多く残っている。結局いえば、どちらも実行せざるおえないのだ。
早速、プティは小さな箱とマッチ箱を手に出し、マッチ棒を摩擦で火を灯す。それを小さな箱に引火させ、煙を出すと同時、投げる。煙を巻きながら魔物たちの間、川の上を通り抜け、遥か遠くからコロン……と箱の落ちる音が木霊してくる。
煙はすでに辺り一面を満たしており、三人は匂いはしないまでも多少不快さは感じていた。これが後三回、多くて四回。予定では組み込まれている。
その匂いのおかげか魔物の姿はほとんど見えない。まだ残っているものがいるが、気力を失い、精も根も果てた状態で、こちらと交戦する意思など皆無。ここまで恐ろしい威力を持つものを人間は作っていたのか、作られていたのかとプティは戦慄する。これなら、魔物と戦う必要が本当になくなるし、実際、殲滅する際もこれを使えば一般の村人が鍬を下ろすだけで殺せてしまえそうだ。ただし、ここまで威力があるものは材料も希少なため滅多に使われないらしい。それにしてはエスペは多く所持していた。不思議だ。
しばらく進むと道が二つに枝分かれしている、精霊のいう中継地点にたどり着いた。しかし、精霊はここで休むつもりはないらしい。
〔ごめんなさい。ここではないわ。もう二つ後の分かれ道が中継地点よ。右へ行きましょう。〕とのことだ。どうやら中継地点はまだまだ先で、こちらはいくつもある分かれ道のたった一つであったらしい。
プティは苦笑いをすると、言われた通りに右へ通る。通りながら、剣を抜いた。剣を、抜いた《・・・》。次の瞬間、というよりかはプティが鞘に剣を収めると、斜め上方から二つに分かたれている魔物の骸が落ちて、不快な肉の潰れる音を大きく鳴らし、地面に伏する。その醜い容姿からゴブリンだということは明白。魔物にしては狡猾な類、通路の窪みで獲物を待ち構えていたのだろう。一般人なら間違い無く一人は死んだ。しかし、所詮ゴブリン。どれだけ知恵をしぼろうとも女神によって封じられた土精霊の力で、どうにかできるほど現実は甘くなかった。それに、二人いればゴブリンなどゴミ同然だ。ゴブリンが真に力を発揮するのは集団戦。だからこそ、集団のゴブリンのみ高難易度指定されていたのだ。
「びっくりした。……あんな速度で反応できないよ私は。」
〔流石ね。〕
二人から驚きと賞賛の声を貰う。それに対しプティは、「あはは。」と苦笑いで返すのが精々であった。
その後魔物は気持ち悪いほどに出現しなくなった。気配の欠片も存在せず、ただ緊張した面をした三人組が戦々慄々と進んでいくのみ。二つ目の分かれ道も超え、あと一つを残すのみだ。ただ一つきをつけるならば、既に皆空腹を迎えており、しかしここで休憩するわけにもいかない。魔物除けの効果が切れるまで食料を外気(何かしらの容器に入っていれば平気。)に触れさせるわけにはいかない。外気に触れてしまうと、食料(といっても肉類のみ)が腐食を始め、終には欠片も残さず消えてしまう。人や魔物は大丈夫かと問われれば、大丈夫である。なぜなら、飽くまで溶かされるのは死したもののみで、生命の脈動を続けているものならばそういった腐食の効果は適応されないからである。なぜこのような中途半端な効果になってしまったのか、それは素材のひとつである聖光草が死者を腐らせ、欠片も残さず消すことによって弔う効果があるからだ。これも中々強力で、それもあってか公爵、王家レベルにでもならないと通常ではお目にかかれない希少品だ。通常に探すにしてもどこに生えているのか法則性が全く存在せず、言ってしまえば宝くじで億当てるほどに難しい。
だというのになぜそんなものを使った魔物除けをエスペが持っているのか。不思議だ。
「まだつかないのー?もうお腹ペコペコだよ。」
もう何度目かわからない空腹の合図を恥じらいもなく鳴らすエスペは、今にでも食料を襲いかかってしまいそうなほどの気迫を持っていた。そこまでいかずとも、プティも空腹感を覚えている。それに対し精霊は、事も無げに返す。
〔情けないわ。もう少しで着くから我慢しなさい。〕
その言葉には流石のプティも失笑を漏らす。空腹感を知らない精霊であるからこそ嘯ける容赦のない言葉。一般人がこの発言をしたら、正気を疑われるであろう。エスペはもう少しならば我慢しよう。そう呟き気力を取り戻す。大抵、もう少しというのは意外と長いものなのだが、それを平然と信じてしまうのは彼女の純真さからか、それとも気遣いからか。結局プティには、どちらなのか紐解くことはできなかった。
しばらく経ち、中継地点の姿が段々と見えてくる。まだ靄がかってわかりにくいが、もう少しという安心感から二人は一気にペースを上げる。精霊は呆れながらもそれに追随する。となれば速い。数分もしないうちに中継地点にたどり着く。
「よっし、ご飯!」
「ご飯だよ。」
〔といっても、干し肉しかないんだけどね。〕
折角の夕食は、とても質素なものであった。
終わってませんね。竜撃の調べは『流れ』です。
次は構成から随分と長くなることが伺えます。本気で区切ることになるかもしれません。
次回の投稿は9月18日の夜になります。




