侯爵令嬢は最後の最期に気が抜ける
ありがち設定を私も書いてみたくなったので…。
独特な言葉の言い回しをしているので、読む人を選ぶのではと心配しつつ初投稿。暇つぶしにさらっと読んで頂ければ、と。
一応連作にする予定ですが未定。需要があれば……。
おや。こんな所にわざわざお越しとは、ご足労頂いてすまないねぇ。
ん?あぁ、この喋り方かい?
そこまで驚く必要もなかろうよ。本来の私は、コレなのだ。
何故今になって、と?
ふうむ。至極簡単で明快さ。ただただ疲れたんだよ。最期だからなぁ。最期ぐらいは私だって気が抜けるし、気を抜きたいのさ。今生は肩が凝って仕方のないモノだったからさ。
さて。君は私と世間話をしに来たわけではないのだろう?
勧める椅子も、出す茶もないが、時間が許す限り君の問いに答えるとしよう。そして、これから生きていく許しにしてくれ。
そうさなぁ…。
始まりはどこだったのか。何だったのか。いつからか。
全ては私に私とは違うモノの一生の記憶がある事に尽きるだろう。
意味が分からない、か。私もそう思うが、如何せんこの記憶が厄介でなぁ……。現状、全てが記憶通りに日々過ぎていっている。差異はあれど、概ね記憶通りだ。
あぁ、すまない。話を戻そう。
根底はなぁ、私と王子が婚約していない事だ。
ふふ。何を驚く必要がある?事実だよ、事実。紛れもなく、ね。
逆を言えば、何故私と王子が婚約していると思い込んでいるのかが不思議なぐらいでねぇ。調べれば分かろうものだが。ふふふ……まるで誰かに操られているようではないか。
確かに私を王子の婚約者にと王家より話は来てたが、了承していないし王家もそれに対して強くは言ってこなかった。だから私は婚約者ではなく、数多の婚約者候補の一人にすぎない。有力候補であった事は否めないがね。
根底が婚約していないのだから、アレに嫉妬し危害を加えたという罪はてんでおかしいものなのだが。如何せん、何を言ったところで言い訳だの誤魔化しだの反省の色が見られないだの、話が通じなかったからなぁ。
そも、私は王子を好きではないのだから、嫉妬のしの字も起こしようがないわけだが…。
ん?私の好きな人?
聞いてどうする?
あぁ、分かった分かったよ。言えばいいんだろう。
――――王だ。
現王であり、王子の父上であらせられる。
……側室の一人にと乞われた事もあってな。あの時は嬉しかったなぁ。今生で一番と言っても良いぐらいにはね。まあ、歳が離れすぎているという事で、王子の婚約者候補に組み込まれてしまったわけだが。
アレに言った言葉、ねぇ。別段可笑しな事は言っていないぞ?
学業を疎かにする者に注意する事も、出席日数が足りない事を伝える事も、異性を複数人肉体関係ありで侍らす事に苦言を呈す事も、使用禁止魔法である魅了を王族や上流貴族相手に四六時中かけ続けている事を注意する事も、なんら可笑しい事ではない。
今の君ならわかるだろう?今の私が、どれだけ馬鹿げた理由でココにいるかを。
君、顔色が悪いぞ……?
服、ねぇ。
アレの持ち物は君達が守護魔法や破壊防止魔法をかけていたじゃないか。それを切り刻むなんて無理じゃないのかい?アレが壊されたと嘆いていたアクセサリも同じく言える事だけどね。
魔法で怪我をさせた?
卒業テスト中に見学場に居ないどころか、順番でもないのに演習場に入り込み術者の目の前に飛び出す方が悪いと思うのだがね。それに、この私が悪意を持って魔法をぶつければ、怪我どころか塵も残さずに消すが?
階段から突き落としたってのもねぇ……。
だって、その日は……いや、卒業テスト以降この一月、私は国の防衛に携わって結界に魔力を注いでいたから学園はおろか城の地下から出れなかったんだ。そんな私がどうやってアレに危害を加える暇がある?
まあ、こうなる事が分かっていたから、無駄にならないように結界に全魔力を注ぎ込んでおいたんだが。おかげで抵抗する力も残ってやしない。こうなってしまうと、全魔力を注いだ事が良かった事なのか疑問ではあるなぁ……。少なくとも、アレの魅了を一時的にでも封印する事は出来ただろうからね。
まさか、卒業式中に断罪されるとは思っていなかったからなぁ。いや、まあ、それも記憶通りだったわけだが……。
私が一月防衛に携わっていた事は周知の事実。
断罪のしようがないと思っていたんだが……いやはや、世界の強制力の怖さを最後の最後に思い知ったよ。
さてと。そろそろ時間のようだな。君の疑問は解消されたかい?
私はこれから居なくなるわけだが、君は自身を許して生きて行けそうかい?
…………、ふうむ。
これは失敗だったかな?
まさか君がそこまで罪の意識を持つとは誤算だったよ。そうならば、私は気を抜かなかったし、気を抜くべきではなかった。はあ…、困ったな。どうにも私は記憶とは違う出来事に弱くていけない…。
まあ、困ったといっても、取り返しようがないわけだが。
あぁ、そうだ。君にはコレをあげよう。私にはもう必要のないものでね。魅了の解呪を組み込んだネックレスだ。身に着けるだけで魅了から一時的に身を守ってくれる。
ん?何故魅了が分かっていて対策しなかったのかって?
ふふふ。
まさか。
していたさ。
私は……いや、王は君にも渡していただろう?薬指に指輪を。
記憶に従い、王にはアレに魅了をかけられる者全てに渡してもらった。
誤算だったのが、アレも私と同じく記憶持ちだったようでなぁ……。この世界の慣習ではない薬指の指輪を愛だなんだと言って外させてしまった事だ。魅了を弾くのに一番簡単な手法だったのになぁ。王から賜ったものは外せないだろうと、高をくくったのがいけなかった。
覚えが、あるだろう?
ふふ。凄い顔になっている事を君は理解しているかね? そうさなぁ……そこまで気に病むのならば、私から一つ訪ねさせてもらっても構わないか?
君から見て、私とは最後まで私だったかね?
――――ローザリア・ミゼディアル侯爵令嬢、で在れたか?
ふふふ……。それを聞けて充分だ。私はその言葉が欲しかったのだろうよ。
ありがとう。これで私は心置きなく散れるよ。
さてと。今度こそ私はいくよ。
こうして最期に君と話す機会が持てて良かった。
健やかに、良い人生だったとと思える生き方をしたまえよ。
「それでは皆様、ごきげんよう」
ローザリア・ミゼディアル
キカトフ国の侯爵令嬢。
"邪気姫"の異常性を訴えるも、魅了魔法をかけられたセンスダータ・キカトフによって裁判にかけられることなく国家反逆罪として斬首刑となる。
後にジュイス・ウィライオクによって無実であったと証明された。
亡くなる前に結界に込めたとされる魔力は、10年に一度の補充を常識としていた当時に100年間結界を綻びなく維持し続けたと言われており、この時代の国家の損失は計り知れないものであった。
異世界の記憶保持者であったと伝えられている。