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最終章  これから始まる……  4

 それから二日間、ディルはジプイやラーニヤと町の中を散策したり、戦艦や天の川通りの修理を手伝ったりして時を過ごした。それは、とても楽しい時間だった。ジプイがくれたキャプテンの衣装で町を歩いたり、復活した『ランランパジウム・14』で、レンを交えてケーキの早食い競争をやったり。極めつけは、おばあさんがビトをこてんぱんに叱りまくる、『怒りの杖』という短編映画の上映だ。これにはビト以外、みんな大爆笑だった。映像は、シュデールがこっそり隠し撮りしたものらしく、そこにはおばあさんの怒りの形相と、ビトの恐怖に怯える表情が生々しく映し出されていた。


 キングニスモとの別れの日がやって来た。戦艦の修理が終わったので、次の映画撮影地に出発するらしい。みんなが戦艦に乗り込む中、ジプイは最後までディルから離れようとしなかった。


「また会えるよね?」


 別れを惜しむジプイに向かって、ディルは聞いた。ジプイは涙を堪えるのでやっとだった。だがやがて、赤ら顔でわんわん泣き出してしまった。


「俺、初めてだったんだ。俺、映画の撮影ばかりで、友達がいなかった。俺、ディルと知り合えてすっげえ嬉しかった。一緒に過ごして、すっげえ楽しいって思えた。忘れない……ディルのこと、絶対に忘れない」




「みんな行っちゃったね」


 星明りに照らされ、丘の上に浮遊する空飛ぶ船のデッキで寝転がりながら、ディルはレンに話しかけた。夜空に満遍なく散りばめられた無数の星くずが、それぞれ明るい輝きを放ちながら二人を見下ろしていた。かすかに聞こえる波の音が、アジトで過ごした一時を鮮明に思い出させてくれた。


 レンとの剣の稽古、ジェオとの釣り、ユンファとのペンキ塗り、アルマとの夕食作り、ルーシラとのお芝居の話……。


「あいつらは、帰るべき所へ帰っていっただけさ。俺たちにも、俺たちの居場所ってのがきっとどこかにある」


 レンの青い左目は、夜空で瞬く星にも劣らないほどの輝きを放っていた。それは、決して失われることのない小さな輝きだった。


「レン……レンはみんなみたいに、帰って行ったりしないよね? ヴァルハートがレンの居場所なんだよね?」


 突然、ディルは不安になった。星が朝になると消えてしまうように、朝起きたら、レンが自分のそばからいなくなっているのではないかと、ディルはふと考えてしまった。


「ディル。俺はこの国が好きだ。抱えきれないほどの愛で包まれたこの国が、大好きなんだ。けど、ここに俺の帰るべき所はない。いや……親父が死んだ時、失っちまったんだ」


 レンの笑顔を見ると、ディルは何も言えなくなってしまった。今のレンは、とても生き生きとしている。レンを待ち受ける、レンのための未来が、楽しみで仕方がない様子だ。


「俺は、この船に乗って世界中を見て回ることに決めたんだ。どんな危険が待ってるかも、どんな楽しいことが待ってるかも分からない。だけど、俺には見えるんだ。その先にあるはずの、俺の本当の居場所がさ」


 今のディルに、レンを引き止めるだけの余力は残っていなかった。だが、レンを暖かく送り出してあげることぐらいなら……。


「明るい未来を……僕も信じてる。未来という名の時間の中に存在する、ほんの小さな希望が、きっと僕たちを待ってくれているんだ……」






レン。

レンが旅に出てから、もうすぐで一年が経つね。

旅の方はどう? 順調? 道に迷ってない? 今どの国にいるの? どんなことしてるの? 誰と話してるの?

知りたいことが多すぎて、全部を言い表せられないくらい。

あれからすぐ、僕には、またいつもの生活が戻ってきたよ。

勉強と稽古に明け暮れる、あの生活がね。

でも、前よりはちょっとだけ良くなったかな。

外出と読書が許可されたし、お父様は僕を、一人の兵士として見てくれるようになったんだ。 

僕もきっと、お父様やレンに負けないくらいの強い兵士になってみせる。

その時は、僕の晴れ姿をちゃんと見に戻ってきてよね。




ねえ、レン。

僕たち『反カエマ・派』は、離れ離れになっても大切な仲間だからね。

たとえ一人になっても、僕たちはつながっているんだ。

どこか遠くにいる大切な人のことを頼ってもいいんだって、レンが教えてくれた。

ううん、それだけじゃない、レンはたくさんのことを僕たちに気付かせてくれた。

だから……

だから僕は、糧にして生きていくよ。

僕は、『反・カエマ派』のみんなと過ごした大切な時間を糧にして、これからを生きていく。

辛くて立ち直れない時や、一人で寂しい時、みんなのことを思うよ。

それでも駄目なら、みんなに会いに行く。

そうして、みんなで作り上げた思い出の中の“曖昧”な記憶を辿って、どんなことでもいいから心に刻み込むんだ。

刻み込んだら、きっとまた歩くことができるから。

一人でも大丈夫なんだって、希望を持つことができるから。


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