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最終章  これから始まる……  3

 次の日、ユンファとアルマは、アジトに置き手紙だけを残し、ヴァルハート国を去って行った。アジトといっても、今はナックフォードの屋敷がある丘の上で浮遊している、一見風変わりな船になってしまったのだが。

 内容はこうだった。


『反・カエマ派のみんなへ。

 長い間お世話になりました……とかいう堅苦しい挨拶は無しにしてっと。

 僕たちがレンさんの船に近づいたのは、他でもない、人魚伝説の噂を耳にしたからなんです。その噂によると、“人魚のうろこ”は裏市でも出回っていない伝説のお宝だそうで、金貨に換算すると、一生遊んで暮らせるだけの値打ちがあるそうなんです。そこで僕たちは、人魚の目撃例の多い四カ国(ペジテ・ア、サンドラーク、ドラートラック、ヴァルハート)からここ、ヴァルハート国を選んだんです。ペジテ・アとサンドラークは戦争をしていて危険でしたし、ドラートラック国は警備体制が厳重で、滞在するなんて僕たちにとっては自殺行為ですからね。

 アジトを訪ねたのは、ヴァルハートに来てすぐのことでした。東の沖に出たっていう幽霊船の話で町全体は盛り上がっていましたから、人魚を捜すならまさにこれだって思ったんです。でもまさか、幽霊船に住民がいたなんて思いませんでしたよ。心優しいジェオさんのおかげで、無理やり『反・カエマ派』のメンバーに数えられてしまいましたけど……。

 時間ばかりが過ぎていき、僕もアルマもやる気をなくして、もう人魚なんてどうでもよくなった(あの時は、人魚って言葉を聞くのも嫌でした)、ちょうどそんな時でした。目の前で、あのルーシラさんが人魚に変身したんです! “灯台下暗し”って、まさにこういうことを言うんですね! 今でもあの時の興奮は忘れられませんよ! かなづちのこの僕がですよ……」


 この後、ユンファとアルマの興奮話だけで用紙二枚分続いたので、読んだ人全員がうんざりした。


「……とにかくその直後、僕たちは覚めやらぬ興奮のまま城下町へ向かい、隠しておいた必要な道具をにわとり小屋から引っ張り出して、海に潜りまくったんです(でもギルファったら、水面から常に体のどっか一部が出てないと、怖くて潜れないって言うんだよ)。ですが、結局人魚たちの住処は見つかりませんでした。夜が明ける頃になって、僕たちは場所を移すことに決めました。サンドラークは戦争をやっていますが、戦地はステア・ラです。だから、次はサンドラークにしようってことになったんです。

 でも、黒雲が空を覆い始めて、これはただごとじゃないなって、危険を感じたんです。キングニスモと巡り合えたのは、ちょうどその時でした。彼らはヴァルハートに向かっている途中らしく、僕たちもその戦艦に同乗させてもらったんです。僕らは盗賊、彼らは裏で世界を牛耳る悪の犯罪組織。共にカエマを打ち倒そうと、意気投合し、ヴァルハートに踵を返したって訳です。サンドラーク潜伏のために用意しておいた変装は、結局意味がなくなっちゃいましたけどね。

 僕たちはこれからも、人魚探しを続けます。ルーシラさんにこのことを話すのが一番手っ取り早いんですけど、それじゃあつまらないですし、盗賊の名が汚れます。いつか必ず人魚たちの住処を見つけ出してやりますよ!

ギルファより。


追伸


 あたしたち、実は南十字祭で店を開くのが一年に一回の楽しみだったの。この国って平和で過ごしやすいし、お客様はお目が高いのよ。盗んだたくさんの品々を一気に売りさばくの。そうでもしないとかさばるじゃない? 今度は、来年の南十字祭でまた会いましょ。どーんと大きな露店を用意して待ってるからね!

ジェファーナより』




 ジェオが祖国のステア・ラに帰って行ったのは、その日の夕方ごろだった。ジェオは使い勝手が良いとのことで(「いつ墜落するかも分からない、あの興奮がたまらねえんだよなあ」)、ホワゾンドープをとても気に入っていたらしい。ディルに「どうしても欲しいんだ!」と頼み込むので、ディルは譲ってあげることにしたが、一つだけ忠告しておいた。


「でも、ホワゾンドープは黙って持ち出した……つまり、盗んだ物だから、疑われないようにくれぐれも気をつけてね」


 飛び立つ直前、麦わら帽子を深くかぶりながら、ジェオはディルとレンに笑いかけた。そのたくましいひげ面が、たそがれ時のオレンジ色に照り輝く射光より、もっと綺麗に輝いて見えた。


「向こうに着いたら、すぐに手紙を書いて送るぜ。俺とすいーとはにーが一緒に写ってる、幸せいっぱいの写真も同封してな」


「なんだよ、ジェオ! 女がいたならどうして教えてくれなかったんだよ、みずくせえな!」


 ジェオの大きな肩を肘で小突きながら、レンは悔しそうに言った。ジェオはゲラゲラ笑った。


「どうしても秘密にしておきたかったのさ……特にレン、お前にはな! ……そういやあ、ずっと気になってたことがあったんだけどよ。お前、どうしてあのカメが王様だったってこと、ずっと黙ってたんだよ。初めから分かってりゃ、王様を尻に敷くこともなかったのに」


 ジェオの質問には、ディルも好奇心をかき立てられた。レンは得意げに笑った。


「あの二匹の正体はルーシラが教えてくれたんだ。ヴァルハートで起こっていることは全て西の海底に伝わってくるから、王様がカメに変えられたことも、情報の波に乗って流れてきたってわけだ。会話はできないけど、人間の言葉は分かるみたいでさ。俺がみんなにこのことを教えてもいいかって聞いたら、絶対に首を横に振るんだよ。動物を必死で装う王様の姿はかなり笑えたなあ。ま、王様の気持ちは分からないこともないけどな。……それに、自業自得だし」


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