最終章 これから始まる…… 1
城下町は南十字祭のような……いや、それ以上の活気で包まれていた。船が町の上空を通過すると、人々は笑顔で手を振り、歓喜の声を響かせた。窓から身を乗り出す者、屋根に登って狂喜する者、道のど真ん中で踊り出す者、とりあえず大げさに喜んでいる者。デッキから眼下を見下ろせば、そうしたたくさんの人々の、たくさんの笑顔を見ることができる。黒雲の恐怖から解放された世界中の人々の安堵の微笑みが、ディルにははっきりと見える。だが、その陰で多くの犠牲者が出たのもまた事実だった。
まもなくディルたちは、大半の建物が木っ端微塵に破壊された、大きな通りにやって来た。
「ここは……天の川通りか? 一体何があったんだ?」
荒れ果てた通りを端から端まで眺めながら、レンは嘆息を漏らした。キングニスモの戦艦は足が三本破壊されたせいで危なげに傾いていたし、気を失った魔法戦士部隊は崩れかけの金具店の前に折り重なって積み上げられていた。瓦礫の片付けをしていた人々が、空を見上げてみんな揃って指を差し、こう言った。「戻ってきた!」と。
「ここには降りれそうにないな。ディル、物置から縄を持ってきてくれ……ついでに、あのカメとネズミも頼む」
ディルはレンに言われたとおり、物置から手頃な太い縄を、飯屋からカメと小ネズミをせっせと運び出した。ディル、レン、ジェオ、トワメル、そしてカメと小ネズミは縄を使って地上へ降り立った。ディルたちに駆け寄るユンファとアルマの姿がすぐ目に入った。
「ディルさん! あはっ! ディルさん!」
ユンファはすすだらけの顔と服でディルに抱きついた。
「何はともあれ、ね」
アルマはやれやれといった調子だ。
「お前たち、一体いつ戻ってきたんだ?」
ユンファとアルマの変わり果てた姿を交互に眺めながら、ジェオは調子外れな声を出した。
「ユンファとアルマは、ここでずっと戦っていてくれたんだよ。キングニスモと一緒に!」
ユンファの腕の中から顔を突き出しながら、ディルは言った。当のキングニスモの面々は、ディルたちがここに到着したのを知って、今しがた戦艦から降りてきたところだった。
「おい、ディル! お前だけ英雄扱いなんてずるいぞ!」
ジプイは相変わらず海賊の船長のような派手な格好で、水筒やら双眼鏡やらをガチャつかせながら走ってやって来た。その後ろから、残りの兄妹たちがぞろぞろと歩いて来る姿や、ビトが葉巻をくゆらしている姿が確認できた。
「みんな無事だったんだね! 僕、みんなにもう一度会いたいって思ってたんだ!」
ジプイと長い握手をしながらディルは言った。ジプイの頬にパッと赤みが差した。それから、シュデールとレンは睨み合いながら会話を始めたし、トワメルとビトはまた一緒に酒を飲もうと約束をかわしていた。
「レンさん、もう教えてくれてもいいんじゃないですか? 僕たちにこのカメとネズミを盗ませた理由……」
途端に、ユンファの顔が青ざめた。持ち主が近くにいることを、うっかり忘れていたのだ。だが、シュデールもハムもそこそこ気分が良かったおかげで、あの時のことは水に流してくれた。
「そういえば、俺たちも詳しいことは知らねえんだった。カエマ女王から『サンドラークの王に渡すように』って頼まれてただけだからな」
ぐったりした様子のカメと小ネズミを見下ろしながら、シュデールは言った。レンは二匹のそばまで歩み寄ると、その場にしゃがみ込んで意地悪く笑みを浮かべた。
「国民に見せる顔がないことくらい分かっていますけど、ずっとそのままでいるわけにもいかないでしょう。さあ、早く元の姿に戻ってください。カエマの呪いはもうとっくに解けているはずですよ、ロアファン王」