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二十章  物語の結末  3

 青緑色の光の底を突き抜けると、ディルの足下にはグランモニカのいる遺跡が広がっていた。氷のようなピカピカの床に近づくにつれ、ディルの落下速度は少しずつ遅くなっていった。遺跡の周囲はほとんどが木の根っこで囲まれており、わずかな隙間から見える外の景色は夜のように暗かった。まだ微かに、キングニスモが放つ砲弾の音が遠くから聞こえてくるのが分かった。グランモニカとディルの他に、ジェオの姿も、側近のカメの姿もそこにはなかった。

 ディルの靴底が床に着くと、その中央で玉座に腰かけるグランモニカが、目を閉じたまま大きくゆっくりとうなずいた。


「待っていましたよ、ディル。あなたがここに来るのを」


 聞く側をはがゆい気分にさせる、グランモニカ独特のゆっくりとした喋り方は、あの時のままだった。


「お久しぶりです、グランモニカ様。その様子だと、カエマはまだここに来ていないみたいですね。良かった、間に合って」


 グランモニカの両目がパチっと開き、ディルをまっすぐに見据えた。緊張感がより一層高まった気がした。


「カエマがここへ来る時……それはこの世界が滅びる時でもあるのです。町で人々が団結しても、世界を救おうと『反・カエマ派』が私の元へこうしてやって来たとしても、全て無駄になってしまうのです」


 グランモニカが何を言いたいのか、ディルにはさっぱり分からなかった。ただ、その場に流れ始めた異様な空気が、ディルの中の不安を一気に膨らませていったのは確かだった。


「どうしてそんなことをおっしゃるんです? みんなで戦えば、絶対にカエマを倒すことができます。新世界の始まりを阻止することだってできるはずです!」


 ディルを嘲笑うかのように、グランモニカは破顔し、短く笑った。


「新世界の入口が開かれることをもう知っているなんて、さすがですね、ディル・ナックフォード。やはりあなたは、アクアマリンを手にするだけのふさわしい器を持っているようです。あの時は……そう、あなたは自分の持つ強大な魔力に気付いてはいなかった。魔法を欲しようとしないあなたの強い意思が、本来瞳から放たれるはずのアクアマリンの輝きを抑制していたのでしょう」


 グランモニカが手にしていた巨大な水晶玉が不定期に揺れ動くのを見ながら、ディルは返す言葉を探した。


「僕は、人間の父親と母親の間に生まれた、純粋な人間です。でも分からないんです。どうして僕の中に魔力が宿ってしまったのか……」


 グランモニカは水晶玉の上で指と指を絡ませ、怪しげにガタガタと動き続ける水晶玉を押さえつけた。


「簡単なことです。あなたはどこかでラフェリ王女に誓ったはず。その計り知れない強大な魔力の性質を見ればすぐに分かります。前にも言いましたように、人魚一族に誓う者には必ずそれが報われるのです」


 南十字祭の時、ディルはラフェリを城の兵士たちから守ると、確かにそう誓っていた。その瞬間、アクアマリンがディルを宿主として選んでいたことに、ディルは全く気付いていなかった。


「ですが、あなたがどんなに強い魔力を手にしようと、仲間が何人集まろうと、それは無駄なことなのです。新世界の始まりは、もう止めることができない……手遅れです」


 何かがおかしい、ディルはそう確信した。


「僕の仲間が一人、ここへ来ませんでしたか? 僕たち、あなたが動き出すことを知って、一緒にカエマと戦おうって決めてたんです。あんまり役には立てないけど、僕たちが加勢した方が少しは有利になると……」


 突然、グランモニカが高声で笑いだしたので、ディルは呆気に取られて言葉を失ってしまった。


「ええ、確かに。つい先ほど、この根の壁を戦闘機ごと突き破り、ここへ威勢よく現れた男がいました。その男も、ディルと同じようなことを話してくれましたよ。そして、私は気付いたのです。この男も、私の計画の邪魔をする愚か者だということにね」


 グランモニカが尾ひれだけで立ち上がると同時に、ディルは剣を抜いた。だが、この刃を本当にグランモニカに向けてよいものなのか……?


「ジェオはどこですか? ジェオに会わせて下さい」


 真珠玉が一際大きく揺れ動き、グランモニカの手に更に強い力が加わった。


「彼はこの玉の中ですが、出すわけにはいきません。今から、あなたに大切な話があるからです」


 水のように繊細なドレスの裾から突き出る魚の尾が、うねうねと不気味に這いずった。


「話? ジェオをそんな所に閉じ込めてまでする話って何ですか?」


 ディルの中で不安と怒りが絡み合い、渦巻き始めた。


「そうね……まずは、旧世界と新世界の存在についてお話しましょうか」


「この世界が四十五年前に作られたことなら、もう知ってます。旧世界からこの世界に移り住んできたのが、わずか二人だけということも」


 グランモニカは無表情のままディルを見つめ、硬直したまましばらく動かなくなったので、その姿はまるで彫像のようだった。グランモニカの青々しい瞳に大きな光明がさした。


「なるほど。わずかながらの知識はお持ちのようですね。では、あなたの知らない事実を教えてあげましょう」


 あの短い時間で、グランモニカはディルの心の中を見透かしていたらしい。グランモニカは再び玉座に腰かけ、ディルは剣の刃先を床に向けた。


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