表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/98

八章  レンの真実  1

 天の川通りは賑やかで陽気なのに、ディル、レン、シュデールの周囲だけは目を背けたくなるほど険悪で、静寂に包まれていた。三人の間を吹き抜ける暖かな風や、人々の弾んだ笑い声すらも感じることができない。双方の無言の睨み合いは、一触即発の状況だった。

 一分ほど経ち、このピンと張り詰めた空気にもう飽きてしまったのか、それともしびれを切らしたのかどうかは分からないが、シュデールが自信をみなぎらせる口調でとうとう沈黙を破った。


「やっと見つけたぞ、マルコ・ポルテ……いや、レン・ハーゼンホーク!」


 レンに向かって威勢良く指を差しながらシュデールは言った。シュデールに正体を見破られても、レンは動揺のかけらも見せず、フンと鼻で笑ってあしらうだけだった。


「あんた、異常なくらい物好きだな。俺たちのことを町であれこれ詮索されると、ほんと迷惑なんだ」


 フードの中にあるレンの表情は、本当に迷惑そうだった。


「こうなっちまった発端はお前だろう。なぜいつも俺たちの邪魔ばかりするんだ?」


 シュデールの口調は段々と激しくなり、小豆のような瞳が枝豆くらいに大きくなった。


「自分の胸に手を当てて、よーく考えてみろ。そして気付くんだ。女王に利用されているのが分からないのか?」


 シュデールに劣らず、レンもしわがれ声を張り上げた。シュデールは、片時もレンから目を離すことはしなかった。


「知ったことか。俺たちはいつも親父に言われるがままだ。親父が何を考えているかなんて、ちっとも分かりゃしない。この国の国王だって同じことさ」


 シュデールは鼻息も荒々しく、まるで準備をしていたかのように即答してみせた。レンは躊躇することなく一歩踏み出し、その長身をぐいとシュデールに近寄せた。


「つまり、あんたたちの頭であるビトのおっさんをやっつければ、全員、おとなしくなるってわけだ?」


 レンは探るように言葉を選んでそう言った。シュデールは喰いしばった歯の隙間から言葉を投げかけた。


「忘れちゃいないか、レン? それは俺たちだって同じことだ。俺たちキングニスモにとっても『反・カエマ派』の存在は邪魔なんだ。その時がくれば、容赦はしない」


 シュデールは尻のポケットから封筒のようなものを取り出し、レンに手渡した。レンが受け取った封筒を、ディルはしげしげと眺めた。何のからくりもない褐色の封筒で、ドクロのキラキラと輝くシールで封がしてある。


「親父からお前への果たし状だ。今日はこいつを渡しに来たんだ」


「そりゃどうも」


 ディルは、シュデールの言葉にも驚いたが、レンのそっけない返答にはもっと驚いていた。果たし状とは、つまり決闘の申し入れのことだ。決闘をするなんて、想像しただけで身の毛がよだつ。それを、レンはまるで、遊ぶ約束をしたかのようにあっさりと引き受けてしまったのだ。レンには何か策略があるのだろうか?


「……よう、ナックフォード。まさかお前がこいつと一緒にいるとはな」


 顔面蒼白で立ち尽くしていたディルに、シュデールが静かに声をかけた。どこか哀切を感じさせる口調だ。


「お久しぶりです、シュデールさん。あれから、みんな元気だった?」


 ディルのぎこちない笑顔がそう喋っていた。


「ああ、みんな元気だ。ジプイは『遊び相手がいないからディルを連れて来い』って、毎日しつこいんだ。ハムは『カメとネズミを盗んだ奴を見つけ出して血祭りにする』とか言って、常に殺気立ってる。……ラーニヤは、親父の機嫌を元に戻すのに二日がかりだったけどな」


 ディルはキングニスモの正体を知ってからというもの、ジプイやラーニヤのことを思い出すたび、心臓をちくちくと刺されるような妙な気分になる。三人が『ランランパジウム・14』でケーキを食べたあの日、ジプイとラーニヤはどんな気持ちでディルに接していたのだろう……ディルはあまり考えたくなかった。


「だけど、僕たちはもう敵同士なんだよね。それってなんだか……とても辛いよ」





「あいつらとの楽しい思い出は忘れた方がいい。少し酷だけど、仕方がないだろう」


 シュデールが城の方角へ立ち去ったあと、レンは『果たし状』をローブのポケットに丁寧にしまい込みながらディルに言った。ディルは気落ちしてうなずいた。


「分かってる……でも、どうして決闘なんか引き受けたりしたの? マルコとシュデールの間に何があったかは知らないけど、他にいい方法があったんじゃない?」


 そのことに関して、レンはあまり触れられたくない様子だった。『仕方がなかった』と言わんばかりの雰囲気さえ感じる。そして再び歩き始めたかと思うと、「ディルは優しくて、とてもいい奴だ」とだけ言った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ