表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Multi Element 〜刻(トキ)の代償〜  作者: kon
1st MEmory 万能元素 —Multi Element—(B)
7/55

(6)

今回は本編に戻ります。

「では、講義はここまでだ。続いて一般演習に移る」

 こう言って「ME濃度指数分析」なるものの説明を終えた篠原先生が電子端末を操作するとオレたちの電子端末に「一般演習」という文字が表示された。

「それではMINEを配布する。皆のポッドに収納ボックスがある。これからそのボックスを解錠するので速やかに取り出し、中に本体が一対、パーソナライズシステムが保存されているチップが一枚入っていることを確認するように」

 そう言って再び篠原先生が電子端末を操作すると、ポッドの右の部分からプシュ、プシュ、プシュと三回エアー音がしたかと思うと、静かに引き出しのようなものが自動で開いた。そこに入っていたのは小さい銀色のアタッシュケースだった。アタッシュケースを開くと直径二センチメートルの円盤型の装置が丁寧に収まっていた。取り出して手に持ってみると厚さが三ミリメートル程度しかない割に意外とずっしりとしており、縁には小さく「MINE」と書かれていた。

「全員がMINEを取り出したことを確認できたので、これからパーソナライズを始める。授業中話したようにチップをMINEに読み込ませ、装着してパーソナライズシステムを呼び出し、パーソナリティーアナライズを始めてくれ。アナライズが終わると自動でMINEがオリエンテーションを開始する。パーソナライズ中は無意識状態になるので、安全のため座って行うように注意しろ。では各自始め!」

 篠原先生の合図でクラス中の生徒が一斉に作業を始めた。MINEの中心あたりを軽くタッチすると縁に白い光が灯り、MINEが起動した。チップをかざすとチップの表面に電子回路のような模様が一瞬浮かび消える。さっきの講義によるとこれでチップの読み込みができているらしい。それを耳にあてがうと、MINEの表面の形状がオレの耳の形に合うよう変形していき、完全に密閉・固定された。

【MINE起動――完了】

【メンタルインターフェース接続――完了】

【パーソナリティー情報――エラー】

【一部の機能が制限されています。全ての機能を利用するためにはパーソナライズを完了してください】

【チップデータにパーソナライズシステムを検出。実行ウィザードを起動してパーソナライズを行いますか?】

 MINEから流れた音声ガイダンスにオレが頭の中でYESと答えると、視界にロード率や、ダウンロード中のデータ情報などが一斉に現れた。篠原先生によれば視覚信号が直接脳内に送り込まれることで見えているように感じているだけらしいが。三秒ほどで必要なデータのダウンロードが終了すると視界から表示が消え、再び音声ガイダンスが始まる。

【パーソナライズの際、一時的にユーザーは無意識状態となります。安全な環境であることを確認したのち、開始命令を入力してください】

 オレは自分が安全なポッドの中に座っていることを今一度確認すると頭の中で「開始」と呟いた。すると体の末端から少しずつ麻痺していき、体の中心に無感覚が広がるにつれて視界は狭まり、耳は遠くなっていった。そして全身の全て感覚が全て無くなった時、オレはついに――。


* * * * *


 あたりを見渡すとそこは白い世界だった。しかしそれはいつものクロノスがいる精神世界とは違って、何もないただただ真っ白で無機質な空間ではなかった。オレが立っていたのは雪に覆われたどこかの道だった。曇った空からは雪がしんしんと振り、街路樹は雪のセーターをまとい、左側には雪の絨毯が敷かれた土手、そのさらに下には黒く見える小さな川が流れている。雪が全ての音を飲み込んでしまったのか、自分の呼吸音だけがやけにはっきりと聞こえた。

 ここがどこなのか、なぜこんなところにいるのか。全く見当もつかない。オレが記憶を失う前に訪れたことがある場所……だったりするのだろうか。

「悠十」

 突然、後ろから名前を呼ばれた。知らない男の声だ。それでも確かにオレの名前を呼んでいた。しかし、振り返って見てもそこには誰もいなかった。辺りを見回しても人っ子一人いない。オレは声の主を探すのを早々に諦めると、土手を下り、流れることを止めないその黒い川を眺めた。

「ユウ」

 今度はよく聞きなれた声がオレを呼んだ。オレは川から目を離さず、話し始めた。

「クロか。お前って精神世界から出られるのか? それともここも精神世界とか?」

「どちらかといえば後者の方が近いが、半分正解で半分不正解だな。ここはお前たち人間が作った箱、MINEとか言ったかな? その中に作られた精神世界の複製品、いや、模造品と言った方がいいかな。人間が人工的に作り上げられる精神世界のパターンは非常に少ないからな。オリジナルとは大分違う。人間の精神世界というのは一人一人違うけれど、それを忠実に再現できるほど緻密なパーソナリティー情報はこの箱の機能に支障がないんだろう」

「よく分からないな。なんだってそんなものがMINEの中に作られるっていうんだ?」

「人間が使っている言葉でいうMEってのにもさ、精神みたいなのがあるんだよ。人間が精神持っているようにね。明確な精神によって不明確な精神が束ねられ、形を作り上げられるのさ。人間の精神も時に不安定だ。それを人工的なパターンに類型化してより明確な精神構造を手に入れようとしてるんだろう」

「やっぱりよく分からないよ。話が抽象的すぎる」

「まぁ今はいいさ。時が経てば分かる」

「《時》を司るお前が言うと嫌味に聞こえるけどな」

 オレが屈んで流れる川に手を差し入れると、川の流れが歪められた。まるで時の流れが歪む様のようだった。

「ユウもその一端を担ってるんだから人のことは言えないだろ」

「別に好き好んで能力を使ってるわけじゃない」

「ユウが望もうが望まなかろうが、能力を使わなきゃならない時が必ず来るよ」

 クロの声にはどこか面白がっているような、それでいてどこか悲しげな不思議な音色があった。

「そろそろユウのパーソナライズが終わる。せいぜい頑張りなよ」

「他のクラスメートたちも精神世界に入ってるのか?」

「そうだろうな。でもユウは精神世界に入ることに免疫があるからこの世界のことを覚えてられると思うけど、他の人間はそうじゃない。人間が夢を忘れてしまうように、それぞれの世界のことも忘れてしまうだろうな」

「そういうものか。他のやつがどんな世界だったのか聞きたかったんだけどな」

「ユウが他人に興味持つなんて意外だな」

「別に悪いことでもないだろ」

「違いない。……あの緋瀬とかいう女、嘘ついたままでいいのか?」

「よくはない、かな。早いうちに打ち明けて謝るよ」

「それがいい」

 オレはやけに素直に話してしまったことが急に恥ずかしくなり、皮肉の一つでも言ってやろうと後ろを振り返ると、そこには誰もいなかった。もしかしたら、クロノスも最初からいなくて、独り言を話していただけだったのかもしれない。

 オレはゆっくりと立ち上がり、もう一度雪景色を眺めると静かに目を閉じた。


* * * * *


【パーソナライズが終了しました。ユーザーのパーソナリティー情報はカラーコード#000000に類型化されました】

【MINEを再起動してパーソナライズを完了します】

 音声ガイダンスに続いてキィンという高周波な音がしたかと思うと、視界にディスプレイが表示され、MINEとオレの基本情報が表示された。

 オレはカラーコードという欄を眺めた。オレのカラーコードは#000000。カラーコードはRGB方式で表される。すなわちオレの精神を表すのは、どんな光をも吸収する、「黒」だった。美しくも不穏な色だ、と少々自嘲気味に嘆いたオレの脳裏には先ほどの世界に流れていた、黒い川の光景がよぎっていたのだった。

どうもkonです。

MINEやクロノスなど若干抽象的で分かりづらい設定が続いておりますが、どうかお付き合いくださいませ。

また読んでいただけた方にはふかく感謝するとともに、コメント、お気に入り登録して等していただけると作者が泣いて喜びます、というおこがましいお願いをしてみます(笑

次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ