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Multi Element 〜刻(トキ)の代償〜  作者: kon
3rd MEmory 分離実験ーDividing Planー(B)
30/55

(6)

第3章第6話です。

ブクマ・コメント等よろしくお願いします。

 気づけばオレは例のあの白い空間に立っていた。そしていつものごとく向かい合うようにクロノスも立っているのだが、いつもと何か雰囲気が違う。数秒後、彼女がいつも結わえている水色のリボンを外して髪を下ろしているからなのだと気づく。

「髪型変えたのか? 失恋でもしたのかよ」

「そうだねぇ。お別れ、という意味ではそうともいうんじゃないか?」

「お別れ?」

「なんだ、ユウ? お前さん、記憶が抜け落ちているんじゃないかい?」

「は? 抜け落ちているとしたら、だいたいがお前のせいだろう?」

「いや、今お前は核の力を使ったから記憶が抜け落ちているんじゃないかいよ。あの気持ち悪い鍵をつっこまれたショックで混乱しているんだろう」

「鍵……?」

 こいつは一体何の話をして――

 

 その時、大量の映像、いや記憶が頭を駆け巡る。まるで踏みつけていたホースから足を退けた時の水のように。

 御縞学院に乗り込んで捕らえられたこと。

 能見という虫酸の走るような科学者と話したこと。

 暗部組織と戦闘を繰り広げたこと。

 カプセルに入った蘇芳を含む男女のこと。

 カプセルに囲まれてそそり立っていた《世界樹(ユグドラシル)の鍵》のこと。

 銃弾で体を撃ち抜かれたこと。

十字架に縛られたこと。

 そして能見が蘇芳を辱め、オレの瞳に《世界樹(ユグドラシル)の鍵》を差し入れたこと。

 なぜオレは忘れていたのか。いや、忘れようとした、の方が正しいかもしれない。オレは逃げ出そうとしたのだ。歪んだ現状を打破しようとしたのではなく、苦しい現実から目を背けようとしたのだ。

 自分に対する怒りが溢れ、ズボンのもも辺りを力いっぱい握り締める。

「その様子だと、今思い出したって感じだね」

「あぁ」

 オレは短く答えると髪を下したクロノス一歩歩み寄った。

「クロ、今もう一度力を使うことはできるか?」

 オレは何度こんな風に力を使おうとしただろう。あんなに拒否していたクロノスの力を。きっとオレは気づかないうちに大量の記憶を失っているのだろう。クロノスが勝手に能力を発動させた時にはその直前の、消えたことに気づきやすい記憶が消えていたのだが、オレが自発的に能力を使った時には記憶が消えた喪失感こそ感じるが、どの記憶が消えたのか分からないような記憶が消える傾向にある気がする。それは無意識にオレの刻の代償への恐怖が働いているのかもしれない。なんにしても、情けないことであるが。

 そしてオレはいつからか、クロノスが力を貸してくれていることを当然のように考え始めていたのかもしれない。確かにクロノスはオレの精神世界に住み着いている存在だとはいえ、結局はオレとは別の人格を持つ者であることも忘れて。そもそもこの能力がどんなものであるのか、という根本的なことすら理解していないのに。だから次のクロノスの言葉に動揺してしまったのかもしれない。

「無理だね」

「は?」

「今の状況でユウに力を貸すことはできない、と言ったんだよ」

「なんでだよ? 今力を使わなきゃ、蘇芳は助けられないし、オレだって、それにお前だって助からないかもしれないんだぜ?」

「そんなことは分かっているよ。ワタシは別に意地悪で断っているわけじゃないんだよ。ただ物理的に、原理的に、理屈的に無理だって言ってるんだよ」

「どういう意味だよ?」

「考えてみればすぐにわかることじゃないか。あの能美とかいう陰湿な科学者がユウの右眼のあの気持ち悪い鍵を差し込んで、何を『開けた』んだと思う? あの科学者は何を欲しがっていた?」

 あいつは、能美は、《分離実験(ディバインディング・プラン)》で蘇芳の人格を分離させるために、蘇芳のオリジナルの人格、蘇芳怜の母親に関する正の感情を消してもらいたいと言った。つまり能美が欲しがっていたのは、時間、いわんや記憶を操作しうる存在――。

「クロノスの……力」

 そう理解した瞬間、真っ白いこの空間の真ん中に大きな穴が開いた。そしてその穴からとてつもない吸引力が発生する。オレ何とか足に力を込めてこらえる。何か掴まるものはないかと、周りを見渡すが、ここは何もない空間だ。強いて言えばたまにクロノスが座っている白い立方体があったりするときもあるが、今回はそれすらない。

「大正解。あの科学者が開けたのは時の核であるクロノス、つまりワタシだ。だから言っただろう? お別れだと」

「な……」

「まぁ、そこそこにユウといる時間とは良いものだったよ。なんにしても、こうなってしまった以上、仕方があるまいよ、あとはユウ一人でもがいてみるか、諦めるか、といったところだろうよ」

「ちょっと待て、オレの記憶を消すだけ消して、それでいきなりお別れなんてふざけたこと言ってんじゃねぇ。せめてクリスマス以前の記憶がどうして消えちまったのか、それだけでも明らかにしてからにしやがれ」

「それも、もうかなわんことだよ」

 そう言って、クロノスはあの例のニヤニヤ顔をするのであった。そして一歩穴に近づく。

「ではな」

 クロノスは穴に飛び込む。オレは堪えていた足を穴の方へと走らせて、クロノスの方へと手をめいいっぱい伸ばす。だがクロノスを飲み込んだ穴はみるみる縮んでいく。そして穴のあった場所にたどり着いた時、そこには何もない白い床しかなかった。

 まるで無力なオレをあざ笑うかのように。


* * * * *


「返せよ」

 オレは十字架に縛られたまま、小さく、でも確かに言った。

「ん? 何か言ったカイ?」

 能美は円を三つ組み合わせたような結晶、時の核(クロノス)を手に取り、余裕ぶった顔を浮かべながら、聞き返した。

「返せって……言ったんだよ。それはお前みたいな……下衆な馬鹿野郎が気安く使っていい代物じゃあないんだよ。まぁ……オレもたいがいの馬鹿野郎だけどよ……」

「君、自分がどういう状況か理解できてないのカイ? 僕に向かって馬鹿なんて言葉を吐いていい立場じゃないことぐらい分かってくれないと困るんダヨ」

「ははっ。そんだけ馬鹿になると、自分が馬鹿だってことも分からなくなんのか?」

 そう言いながら、能美のずっと向こう側に香子が現れたのが視界に入る。香子がサイレンサ―を付けているためか銃声が聞こえないのもあるが、能美はあまりの怒りで気づいていないらしい。止めに入った暗部の奴らをものの数秒で片づけた香子はオレの方へ駆けだしている。さすが、天才学年長と言ったところか。

「本物の天才が現れたんだ。いい加減天才気取りの大馬鹿野郎はすっこんでろ」

「な、何を言っているんだって聞いているんダヨ!」

 能美がオレを殴ろうと振りかぶる。おそらくいつもデスクワークでふんぞり返っているのだろう能美の腕はひょろひょろで、滑稽でさえあった。

 十字架に縛られてさえいなければ、勝算はある。そして彼女ならできるはずだ。この数十メートル離れた状況でオレを縛る鎖だけを打ち抜くことが。

「香子さん!」

 オレが叫ぶと香子は瞬時にオレの真意を飲み込んだように、二丁の拳銃を構え、フルメタルジャケット、トレーサーと叫び、引き金を引いた。右側の拳銃からは実弾、左側の拳銃からは曳光弾が二発ずつ放たれ、オレの両手両足を縛る鎖を打ち弾く。

 自由になった身体を一気に殴りつけるモーションに持っていく。オレは取っ組み合いの喧嘩などしたことなどない。だが、どこかで知っているように、自然に拳を握りしめた。色んな感情がオレの脳内を駆け巡りスパークする。と同時に能美のひ弱な拳もオレの顔にどんどん迫る。


 そして、僅かに早くオレの拳が能美の頬あたりにめり込んだ。拳の皮が破れて痛みが走るのにも構わず、そのまま拳を振りぬく。

 オレに殴りつけられた能美は「ヒッ」という耳障りな悲鳴をあげながら地面に倒れこむ。倒れこんだ能美の手から時の核クロノスが転げ落ち、カロンという軽やかの音を立てた。

 オレはそれを拾い上げ、膝をつく。さっきまで無意識にシャットアウトしていたらしい銃創の痛みが貫いたのである。が、その瞬間新たな痛みがオレの肩に走る。

「あああああああああああ!」

 オレは絶叫する。なんと能美が長い髪を振り乱しながらオレの肩に噛みついていたのだ。その少し黄ばんだ歯が肩の肉に食い込み、激しい痛みと嫌悪感がオレの体内を渦巻く。

 反射的に手の力が抜け、再び地面に時の核クロノスが投げ出される。

(しまった――!!)

 そう思った時にはもう遅く、能美はオレを突き飛ばし、這いずるように走りよるとそれを掴んでゆっくりと立ち上がった。

 オレは取り戻そうと、突き飛ばされて倒れた身体を起こそうと腕に力を込める。しかし能美はオレの銃弾が貫通し、血のにじんだ左鎖骨あたりをその硬い革靴で思い切り踏みにじる。

「がああああああああああああああああああああああああ!!」

 さっきよりも大きな絶叫が口から飛び出る。痛みでブラックアウトしそうな視界の端で、いつの間にか現れた暗部の援軍に取り囲まれている香子の姿があった。

「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 不快な笑い声をあげながら、オレがもう動けないのを確認した能美は未だに眠る蘇芳に近づく。

「これで、実験は成功するんダヨ……。これで僕が天才だということが証明されんるダヨ!」

 そしてかざされた能美の手から見覚えのある水色の光が現れる。


 クロノスの力が解放されたのだ。

どうもkonです。

今回もハードなシーンが結構ありましたね。能美が噛みつくシーンを想像しながら書くときは自分でもかなり気持ち悪いなーとか思いました。

さて、そろそろ次回からは悠十たちの逆転劇をみなさんに楽しんでいただけるようにしていきたいと思います。

怜は「オレンジ」とどのようにかかわっていくのかも見逃せませんよ!

では次回もお楽しみに!

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