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Multi Element 〜刻(トキ)の代償〜  作者: kon
1st MEmory 万能元素 —Multi Element—(A)
1/55

(1)

✳︎本作は自身が以前執筆した同名小説に設定変更、加筆を行ったものです。

✳︎合わないと思われる方もいらっしゃるはずです。改善した方がいい点を(炎上しない程度の語調で)コメントしていただけると幸いです。

「いいか、絶対に余計なことをするなよ。オレはお前の能力なんてこれっぽっちだって使いたくないし、使わなくたって生きていける」

 オレは目の前の少女に向かって言った。少女は水色のリボンとともに編み込まれた白い髪の毛先をくるくると指先で弄びながらため息をついた。

「そんなにきつい言い方をしなくたっていいじゃないか、ユウ。ワタシだってお前に死なれたりしたら困るんだし」

「日常生活でどうしたら死にそうな事態になるんだよ?」

「そりゃあまぁ、色々あるだろうさ……」

 少女は弄んでいた髪から手を離してニヤリと笑った。それを見たオレは先ほど少女がついたため息より倍は深いため息をついて頭をがしがしと掻いた。そしてあたりを見渡して、はいはい、と適当な返事を返す。オレと少女しかいない、その真っ白な空間の中で。


* * * * * * * * *


 ピピピッピピピッっという目覚まし時計の不快な音に目を覚ましたオレは寝癖のついた頭を掻きながら布団から出た。

「悠十さーん、朝ご飯できてますよー」

 一階から中学三年生にしてはあどけない少年の声が聞こえる。

「ああ、今行く」

 オレはそう返答してから今日から通うことになる学園の制服の袖に腕を通し、寝癖を手早く直したあと一階へと駆け降りた。

 リビングに入るとトーストの香ばしい匂いと、コーンポタージュの甘い匂い、そしてコーヒーの香りがした。

「悪いな、ヒサも今日始業式なのに」

 オレは席に座ってトーストにマーマレードを塗りながら言った。

「いいですよ。この前みたいに悠十さんが下手に料理してフライパンを焦がされるよりはマシです」

「う……そりゃそうだな……」

 オレはバツが悪くなって渋々トーストをかじった。

「ヒサはなんて中学行ってんだっけ? なんか結構頭いいところだったよな?」

「京成中学ですよ。その質問前も聞きませんでした?」

「あ、あれ、そうだっけか……あのバカ、この前はその《記憶》を使いやがったのか……」

「何か言いました?」

「い、いや、なんでもない」

 オレは食べ終わった皿をまとめてカウンターに置き、歯磨きを済ませると、黒い革のカバンを手に取った。

「じゃあ、そろそろオレ出かけるよ」

「あ、悠十さん! 僕ももう出かけます!」

「そうか? じゃあ途中まで一緒にいくか」

 オレとヒサは大きくもなく小さくもない一軒家、緒多家から出ると、アスファルトの一本道を歩き出した。

「緊張、してますか?」

 ヒサが心配そうな顔でオレに問いかける。

「そりゃあ、まぁな。色々厄介な事情があるし、うまくやれる自信は……正直ないな」

「そうですか……」

「あ、でもお前が落ち込む必要はねーよ、別に。どれもこれも仕方ないことなんだしさ」

「それはそうなんですけど……」

「そんなことより、お前今年受験なんだろ? 大丈夫なのか……ってお前なら大丈夫か。この前クラスで一位だったとか言ってたしな」

「でも本番で取れなかったら意味ないですし」

 ヒサが謙虚な言葉を述べたところでオレが乗る予定のバス停に着いた。

「じゃあオレはここで」

「はい。学校、楽しんでくださいね」

 ヒサがひらりと手を振りオレを置いて歩いていく。その後ろ姿をしばらく見つめていると、バスが静かにオレの横に停車した。オレはバスに乗り込み、学生で溢れかえるなか、やっとのことで立ち位置を定めると、吊革にぶら下がりながら外の景色を眺めた。

 この町は全国に二〇ヶ所存在する《学区》のうち、第一二学区と呼ばれる場所だ。一つの《学区》にはヒサが通っている京成中学のような普通(と呼ぶにはいささか偏差値が高すぎるが)の小・中学校や、高校、大学が存在するが、《学区》自体はある一つの「特殊」な学園を中心として設定されている。基本的にその学園には一五歳から一八歳、すなわち高校生にあたる者たちが通っているのだが、かくいうオレもその学園の生徒となるのであった。

 バスに揺られること約四〇分、オレはその学園に到着すると、気づかれない程度の深呼吸を二、三度繰り返すと、近代的な印象の正門をくぐった。

 桜の木々が誇らしげに立つなかで、もともと同じ中学から来たのであろう者たちがこれからの生活に少し興奮しながらそれぞれ塊となって談笑しているのがいたるところで目に入る。そもそもこの学園には一学年約一〇〇〇〇人という膨大な数の学生が在籍している上、入学に必要なファクターはたった一つ、先天的なある資質の有無だけであり、「特殊な学園」同士に優劣の差がないとなれば、あえて自分の出身校があるのとは別の《学区》の学園に進もうなどと考えるはずがないのである。したがってこの学園において同中なる文化が非常に顕著となるのは必然のことなのである。――オレのような例外を除いては。

 オレにはこの学園内に友人はおろか知人すら存在しない。別に中学で友人ができないほどコミュニケーション力がなかったとか、他の学区から引っ越してきたとか、そういった類の問題ではない。この世にオレの名前をオレの顔だけを見て呼ぶことができるのは、ヒサこと緒多幹久と、オレが最近まで入院していた病院の医者ぐらいのものなのであった。

 オレは人混みを掻き分け、掻き分け、クラス分けが発表されている電子掲示板の前までなんとか進むと、「緒多悠十」という名前を探した。掲示板にはずらりと知らない名前が羅列され、所々に桜の花びらが散るエフェクトが施されていた。五分ほど掲示板とにらめっこしてやっとの事で一〇組の生徒の一覧の中に自分の名前を見つけた。参集教室が一三一〇教室であることを確認すると、オレは再び人混みを掻き分けて第一校舎なる建物に入ると地面に映し出された映像にしたがって一三一〇教室を目指した。

そしてオレが二階と三階の間の踊り場まであと三段というところまで行った瞬間、視界が水色を帯びた。


 『オレが踊り場まであと一段というところで上の方で少女が小さく悲鳴をあげたかと思うと、長い黒髪を先の方で赤いリボンで結んだ少女が階段から転がり落ちてきた』


 そしてまた刹那、視界が元通りになるとオレは踊り場まであと二段のところに足を踏み出していた。オレは一段飛ばしで踊り場へ駆け上ると、振り返って身構える。するとそこに先ほどの少女がすっぽりと飛び込んできた。

「大丈夫?」

 オレは少女を抱きかかえたまま顔を覗き込んで尋ねた。

「え、えっと、だ、だいびょうふです……」

 吃りながら答える少女の瞳はルビーを想起させるような鮮やかな赤色だった。髪の色が真っ黒なのを見るとアルビノというわけでもなさそうである。カラコンとかそういった類だろうか。薄化粧で比較的色白な肌は今しがた階段から落ちたという恥ずかしさのためか、若干桃色に染まっている。

「そっか。気をつけて歩きなよ」

 よっ、とちょっとした掛け声をかけながら少女を抱き起こす。

「あ、あの!」

 少女がうつむいたままいささかか細過ぎる声で言った。

「そ、その、あ、ありがとうございました!」

 少女は階段を一段下り、思い出したようにちょこんとお辞儀をしたあと、慎重度最大で下りていった。

 少女がこけずに下りていくのを見送ると、ふうっ、と安堵のため息をついた。そして上り階段を一段上がって、立ち止まった。

「えっと……どこ行こうとしていたんだっけ……」

 人差し指でトントンとこめかみあたりを叩いてみたが、何も思い出せなかった。さっきより深度二倍のため息をつく。ただし、安堵ではなく悔恨と呆れからなるため息であった。

 オレは静かに目を閉じて、独り言には聞こえない独り言を呟いた。


「おい、クロ、余計なことすんじゃねぇっつっただろ」


 目を開くとそこは学園の校舎などではなく、真っ白な何もない空間だった。いや、正確にいうとオレともう一人、水色のリボンと白い髪の少女だけが存在する空間であった。

「まぁいいじゃないか、ユウ。情けは人の為ならずっていうだろ?」

「それが人様の記憶を盗んだこそ泥の吐くセリフかよ」

「盗んだとは失礼だな。正統な取引だ」

 ビシッという効果音が聞こえるかと思うほど堂々とオレを指差したその少女はお得意のニヤリ顔をして見せた。

「どこが正統なんだよ。双方の同意あってこその取引だろ。オレはそんな取引に応じた覚えはない」

「ほぼ神に等しい力を持ち合わせておいて、そんなの僕はいりません、と抜かすとは……何もかも忘れてビクビクしていた誰かさんと同一人物とは思えないな」

「……うるせぇよ」

 そう毒づいてから、もう一度深いため息をついた。


どうもkonという者です。

筆が遅く、文体も未熟ですが楽しんでいただけるように頑張りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

一度の更新で3000字以上を目安に上げたいと思います。

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