『Soloplay-Offline Ver.1.00』
初投稿
書くなら絶対にやりたくないようなゲームで
先生、文章力が欲しいです・・・
世は正に、大VR時代。特にMMORPGの隆盛は凄まじく、アカウント数が人口の1割を超えることもザラだった。
だがあえて、俺は時流に反したゲームを始めることにした。『Soloplay-Offline』ホントは安かったのが一番の理由なのだが。
「誰にも邪魔されない、貴方だけの世界を!」
そんな謳い文句にホイホイ乗せられ、DLが完了したのは開始から一週間後のことだった。
このゲームはあえてオンライン環境を極限まで減らしており、ファイルサイズがトンでもないことになっているのだ。
今年に入ってPCを買い換えておいて正解だった。
つい今しがた基本情報の入力が完了。これからいよいよプレイ開始だ。なお、DLが終わるまでにマニュアルは一読している。
毎度おなじみのHMDを被り、ソフトを起動。グリッメーンと呟きたくなるサイバーなトンネルめいたロード画面を経た後、俺はゲームの世界へと降り立った。
「青い空!澄んだ空気!そして――俺だけの世界!」
別段コレといった特徴の無いテンプレファンタジー。だがしかし、このゲームには他のタイトルには無い要素が一つだけあった。
他のプレイヤーはもちろんのこと、NPCやモンスター、一般動物さえ一切存在しない。タイトル通りのお一人様RPGという点だ。
ぼっち一筋ン十年。会話しない暦も年単位となりつつある俺にとって、他者というものはただただ苦痛でしかないのだった。
口を開けば悪態と雑言。妬んで恨んで羨んで、毒々と業を重ねるだけの連中と一緒に過ごしていても自分には何の益も無い。
だったら最初から、独りでいた方がよっぽどマシなのだ。少なくとも俺はそれで良い。――と
『ゲームスタートおめでとうございます!Soloplay-Offlineは貴方を歓迎します!』
目の前の空間、正確には顔から2mくらい離れた位置にメッセージウィンドゥが出現した。
『クエスト完了:プレイヤー大地に立つ』
どうやら最初のクエストを消化したようだった。『NEXT』と表示された部分をタッチしてメッセージを送る。
『報酬:ナイフ、小屋の鍵、パン(中)』
チャリン、と鈴のような音が鳴り、同時に肩から掛けたアイテムバッグに僅かな重量感が。
口座振込みの如く、中にアイテムが湧いたのだ。早速取り出してみる。
まずはナイフ。最も低ランクの武器であり、攻撃力は僅か+2しかない。だが武器としての能力はむしろオマケだ。
クラフト用必須ツールとしてのウェイトの方が高い。
今は武器や小物が精一杯だが、スキルLv.を上げれば、家や船だって作れるようになる。
地平線まで続く巨大な廊下や、水平線と一体化した巨大プールなどなど、ゴージャス生活だって夢じゃない。
次に小屋の鍵。これは拠点となるマイホームの使用権をアイテムにしたものだ。
クラフティングに便利なワークベンチをはじめ、ベッド、キッチン、シャワー、トイレ(水洗!)と生活必需品が一通り揃っている。
ゲームデータは随時オートセーブされるので、ベッドで寝たところで気分以上のものではない。が、やはり雰囲気は大事だと思う。
そしてパン。文字通りのフードアイテムで、食べれば満腹度が回復する。
この手の空腹エミュレートは現実ほどひもじくは無いが、それでも長く続くとかなり苦しい。
(小)は10%、(中)は20%、(大)は88%回復してくれる。実際に口に運ぶ必要は無く、ウィンドゥから使用すれば食べたことになる。
マンネリを防ぐ為にはこういう面倒も必要なのだ。なお最大値は100だ。
「いよっし!遊ぶぞ~!」
新生活の始まりにワクワクが止まらない俺は、返事が無いにもかかわらず思わず叫んでしまった。だからこそとも言えるが。
◇
異世界らしい、舗装されていない田舎道をザクザクと進む。ランドマークなどとは無縁の風景。
現実ならすぐにでも迷うところだろうが、この世界ではマップを開けば一目瞭然だ。全ての地形に加えて、隠しダンジョンだって表示されている。
そしてスタート地点から歩いて数分のところに、住処となる小屋がポツンとあった。雰囲気のある木造平屋建てで、周囲は木々が茂ってる。
さっそくドアの鍵を開け、中に入る。窓から入り込む穏やかな日の光と、味わいのある木の匂いに包まれる。すると再びウィンドゥが現れた。
『クエスト完了:ヲカエリナサヰ』
クエストはかなり細かく設定されているようだった。これはやりがいがあるな。さて報酬は・・・
『報酬:狩人の弓、鉄の盾、釣竿』
生産系アイテムGET!。狩りと釣りが出来れば料理にも幅ができる。これで自給自足に一歩近づいた。
さらに初の防具。いかにも盾って感じの盾で味気ないデザインだが、装備の選択肢が広がるのはうれしい。
早速背中に背負い、壁に掛けてある鏡の前でグルリと一回転。中々いいんじゃないか?コレ。
次第に冒険者らしくなっていく自分の姿に、もちろんナルシストなどでは無い俺でもテンションが上がりっぱなしだ。
この気分を生かして何か・・・
「よし、武器を作ろう。ついでに熟練度も」
せっかくの初日なんだし、詰め込む勢いの方がいいかもしれない。俺は小屋の外に出て、必要な材料を探すことにした。
資材の場所はマップに表示されている。小屋の裏手にある丘のふもと、「採掘場」と達筆で書かれた看板が立っている。
膝くらいの高さに拡張現実めいた円形のラインが表示されており、その内側に入ると採掘が可能になる。
周囲にはスコップやツルハシも置いてあるがこれはただの小道具で、使うことは出来ない。というか必要ない。
実際に掘るわけではなく、ウィンドウに表示されたゲージを目押しするだけでいいのだ。超ラクチン。
今こそ、パチスロで培った俺の動体視力が活かされるときだ!。
・・・一時間後、俺は資材をアイテムバッグにしこたま詰め込み、ワークベンチの前に戻った。
中身は木材と石材が800、ボーキサイトとオリハルコンインゴットが614だ。
レア素材のボーキサイトに加えて、ハイパーレアのオリハルコンが手に入るなんて初日から運が良すぎる。コレはクラフトも期待できるだろう。
メニューウィンドゥを開いてワークベンチのクラフトを選択。投入資材の量を選択すれば後はオートでやってくれる。
俺に必要なのは待っていることだけ。一々ハンマーでトンテンカンテンしなくてもいいのだから素晴らしい。
剣が欲しいから投入量は木材10に石材251、ボーキサイトが10でオリハルコンは250にしておこう。
・・・そしてさらに一時間後、完成したアイテムがワークベンチの上に置かれていた。ちなみにその間俺は昼寝に興じていた。採掘で疲れてたし。
出来たのは「アダマンソード」
オーソドックスなデザインのロングソード。アイテムのステータス表示を見る限りでは、おおよそ上の下くらいの剣だ。
攻撃力+320とかなりのもの。さらに防御+199と状態異常耐性+56も付いてくる大盤振る舞いだ。
画面には『両手装備』とあるので両手で構える。するとずっしりとした重さが手に伝わってきた。同時に身体に力が漲ってくる。
ひょっとして・・・ステータスを確認するとスタミナが+70されていた。ラッキー!。さらに
『クエスト完了:初めてのクラフト』
やっぱりというべきか、チュートリアルクエストがまた一つ完了した。
『報酬:EXPコイン10000枚』
スゲー!使うと経験値に変換されるコインが1万枚も!これでチマチマ経験値稼ぎしなくても一気にパワーアップだ!
このゲームにキャラクター自体のレベルというものは無く、スキルごとの補正値を上げていくシステムになっている。
まずは剣技を+600。次に防御も+500アップさせる。うぉぉぉ!力が漲ってくるぞ!これはスゴイ!
さらに素早さを+400に回避も+360だ。素早すぎて、一歩歩くごとに格ゲーの必殺コンボのように残像が出る。カッコイイじゃないか!
スキルも欲しい。サポートスキル「必中」を習得。これは使用すると全ての行動が必中となる、名前どおりのスキルだ。
キャラクターが育っていない時によくある『MISS!』の連続表示とはオサラバだ。MPやSPを消費せず無限に使えるのも嬉しい。
続いて同じくサポートスキル「鉄壁」を習得。こちらは防御スキル。発動中はダメージを一切受けることが無いという便利なものだ。
SPは消費するものの僅かに1、微々たるものだ。自然回復のスピードの方が早いのでこれも実質無限に使うことが出来る。
三つめは移動スキル「エアリアルダッシュ」。空中でのダッシュが可能になるスタイリッシュなスキルだ。
コレもSP消費は2とかなりお得。別に飛行スキルもあるのだが、瞬発力ではこちらの方が圧倒的に上。さらに急な方向転換も可能で何かと都合が良い。
あの山やその川をサクサクッと突っ切るのもお手の物だ。移動が捗るな。
なんかもう、ゲーム開始初日から俺最強じゃね?という錯覚に陥ってくる。さすがに自重しないとな。慢心から悲惨な目に遭うことは良くあるのだ。
コインはまだ6000枚以上残ってるが、今日はこのくらいにしておこう。後から使ってもいいんだし。
◇
さて、どうにも力を持つと試したくなるのが人のサガというもの。小屋の隣にある訓練場で腕試しだ。
上にも書いたがこのゲームには敵が一切出てこない。というか動くものが俺以外一切無い。静かでいいけど。
なので戦闘は基本的に訓練場で的を攻撃することになる。
敷地内をざっと見渡すと、様々な大きさの的がこれまた様々な間隔や距離に置かれている。
近くの的に狙いを定め、俺は腰から下げた「アダマンソード」を持ち上げ、「雄牛の構え」をとった。
そしてスキル発動!「必中」!感覚が研ぎ澄まされ、視線が正面の的に集中する!
スゥ―――渾身の突き!
的の中心に剣先が吸い込まれるように突き刺さり、クリティカルが発生。ド派手な効果音と共に爆発エフェクトが表示される。
もうもうと立ち込める煙。やったか?煙が晴れるとそこには――予想通り、的はバラバラになっていた。
ちなみに別に力む必要は無かった。このゲームステータスが全てだから、軽く突こうが全身で吶喊しようがダメージ同じだし。まぁフンイキフンイキ。
直後にすでに恒例となったウィンドゥが。
『クエストクリア:初めての戦闘』
『報酬:アダマンソード』
なん・・・だと・・・?
ソードとソードがダブってしまった。ここは初期装備で充分なんだな。いや、しかし待てよ?
両手に持ったら二刀流できるんじゃね?と思いついて左右それぞれの手でアダマンソードを構える。だが、
「ダッメだ~!」
二本目を持とうとした瞬間、弾かれるようにして剣が手から離れた。装備解除の瞬間にアイテムバッグの中に戻るので、足に刺さるなどと言うことは無いが。
マニュアルにはそんな事書いてなかったけど、やはり武器は排他装備のようだ。右手に弓、左手に剣で遠近両用!というわけには行かないのか・・・。
いや、しかし待てよ?対応スキルがあってもおかしくは無い。メニュー画面でスキル習得の項目を選択する。
親指でついーっとスクロールバーを動かしていくと・・・・・・あったあった。だがこれは・・・
『スキル:四刀流/刀剣類を4つ同時に装備し、攻撃が可能になります』
なん・・・ダッテ・・・?
二つで充分ですよ。なんで4つも・・・とさらにスクロールしてみるが、同時装備スキルはコレ一つしかないようだった。
そうなるとさらに二つクラフトしないといけないが、仕方ない。俺はスキルを習得した。
そして一度小屋に戻り、クラフトベンチの前で連続で資材をぶち込む。えぇいこの分量だ!今度は4時間ほど寝た。
完成したのは「シュヴァルツェブロームエーレンベルクビルケンシュトゥック」と「なんの変哲も無いφ32mm×600mmくらいの木の棒」
前者はイカニモジェロニモな中世ヨーロッパ風のロングソードだ。攻撃力は+97とぶっちゃけハズレだが、今は装備できればいいのでこれで良しとする。
後者は名前の通り。攻撃力は+7000とかなりのものだ。ステータス間違えたんじゃないか?とも思えるが威力は高ければ高いほどいいのでこれで良しとする。
さてさて、コレらを装備するとどうなるのか。ゴクリ、と息を呑んで『装備』を選択する。
結果、俺の背後に立つ謎の黒子(ですのって言わない方)が両手で二本の剣構えていた。息が荒いのは仕様なのだろうか。何か視線を感じるのでスキルをOFFにする。
消える黒子(ですのって言わない方)。さらば黒子(ですのって言わない方)、もう使うことは無いだろう。ですのって言ってたら・・・どうだろう。
あっけない終わりだが、俺は一人で居たいのだ。背後から首筋に息を吹きかけられながら暮らす趣味は無い。と――
『クエスト完了:初めての黒子(ですのって言わない方)』
また一つ達成してしまった。書くことに困ったらとりあえずクエスト完了させておけばいいとでも思っているのだろうか?。まぁいい、報酬さえいただければ。
『報酬:黒子(言う方)』
どうしよう。背後から首筋に息を吹きかけてもらいながら暮らすのもいいかもしれない。
(ちなみにこれ二次創作のガイドライン的にどうなんだろう?ギリ?)
などと掌返しを意識した直後――
『システムメッセージ:ゲームプレイから現実換算で1時間が経過しました。健康と安全の為10秒後にソフトウェアを終了します』
うっかりして自動ログアウトをONにしたままだった。さらにうっかりしたことにオートセーブもOFFのままだった。
残された時間で設定変更は不可能。そうなると・・・全てがパー、やり直しだ!
ぐぬぬ。仕方ない、テイク2だ!俺は決意を固めた。