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第一話――⑧

たっぷり待つこと八秒、ようやく倉のキャラは自らの陣地に復活(リスポーン)した。この八秒は短いと思われがちだが、実際にゲームをプレイしてみると結構長い。それに、待っている間は基本何もすることができず周りを見渡すことができるぐらいだ。これのおかげで殺された相手の場所を確認することができるくらいだ。だが、まぁしかし、確認することができるといえばできるのだが、それがわかったところでそいつはたいていの場合、他の味方に殺されるのでやり返そうにもやり返すことはできない。つまり、この手持ち無沙汰ゆえに長く感じ、暇になるのだ。

 ――さぁ、もう一回突撃してみよう。MVPもとりたいしなー。今日は調子いいからいけそうだ。

 武器をメインに変え、フィールドの左端へ進んでいく。さっきと同じ場所を抜け、またもや珍しく敵と出会うことなく同じ場所までたどり着くことができた。そこへタイミングよく二人のプレイヤーが通っていき先の道へと姿を消そうとする。倉は先ほどと同じように後ろからヘッドショットを狙い、まるで自分がその引き金を引くかのように人差し指に力を込めた。ダダダダダダダッと画面が揺れ赤いライトエフェクトが銃弾の軌跡を描いていく。その軌跡は狂いなく敵の後頭部へと吸い込まれていくように命中した。赤い血とともに目の前の二人は膝から崩れる。

 ――おっし!いいぞやっぱり今日は調子がいい。思い切って敵陣地に突撃するか。

 またしてもせこい方法でキル数を稼いだ倉だったが、調子に乗ってすたすたと敵陣地へと突っ込む。そして、自分陣地同様にあるドアに入った。


 ~~~~~~敵陣地~~~~~~


 倉のキャラ[見てろよ雑魚ども俺が全滅にしてやるぜ]

 敵の方々[おいみんな、かも野郎が来たぜ!]

 倉のキャラ[はっ言ってろ!今日の俺は一味違うんだよ!]

 敵の方々[おい調子にのんなよ。てめぇ一人なんざこの人数がいれば瞬殺にきまってんだろ!?]

 倉のキャラ[人数なんて関係ないねッ。群れてたまりこんでるようなやつらはなぁ全員ヘッドショットで終了だ!]

 敵の方々[てめぇいい度胸してんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!]


 ~~~~~~以上約1秒の倉の妄想終了~~~~~~


……………そこからは一瞬だった――――――

 ダダダダダッ相手の頭をめがけて連射する倉。しかし、その銃弾は一発も相手に届くことはなかった。

 それはもう見事なまでのやられっぷり。本人もびっくり。これが本当の蜂の巣というやつだろう。倉のキャラクターは赤い血を真っ赤なバラのように咲かせながらむごたらし……美しく死んだ。

 ――わぁお。これが本当の蜂の巣ね。……それにしても一発も当たらないってどういうことよ。一人も殺せず終わるとか噛ませ犬みたいでカッコ悪すぎるんですけど。

 またしても八秒間のキルカメラへと画面は移り変わる。そこには、死んで倒れている倉のキャラを無情にも数名で撃ち続ける敵の姿があった。赤い血がダダダダという銃声に合わせてしぶく。

 ――あぁぁ、悪かったよ!俺が悪かった。だからもう撃たないでくれよ、頼むよ、なっこのとおり!

 心の中で手を合わせて謝罪をする倉の気持ちは伝わることなく、倉が復活しその場から死体が消えるまで止むことはなかった。

 ――もう怒ったからな。あいつら!絶対にやり返してやる。

 十分な気合と少しの怒りとともに陣地から外に出たところで、

 ダァァァッッン。

 グレネードが飛んできた。またもやあっけなくやられ、血が壁を汚す。

「ペーパービレッジーーーーー!!?」

 あまりのショックにリアルでキャラネームを叫んでしまった。さらにその声でさっきまで寝ていた銀次郎が目を覚ました。

「ふぁぁぁぁぁ」

 盛大なあくびをし銀次郎が上半身だけを起こす。いつもボサボサな髪がさらにボサボサになっている。

 ――グレネードくらったのって俺じゃなくて銀次郎なんじゃないか……?

 そんなわけないバカみたいな疑問が倉のなかにパッと浮かんでサッと消えた。相変わらず残念な思考をしている。

「銀次郎すまん。思わず叫んでしまった。」

「あぁ、なんかうるさいと思ったら倉か。って、はっ?なんでお前がこの部屋にいるんだよ。もしかしてあれか?ストーカーかお前?」

「何寝ぼけてんの?」

 急にわけのわからないことを言ってきた。

「いいや、オレの頭は至って正常に働いている。おかしいのオレじゃなくて、お前だろう。早く出て行ってくれないか?」

「いや俺はお前と同室だから、この部屋なんだけど。ほんとうに大丈夫か?覚えてないとか言うなよ、いまさらになって」

「オレが倉と同室だと……。はぁ、まったく悪い夢ってこのことを言うんだな」

 そう呟いて銀次郎は再び目を閉じて寝ようとする。

「寝れば覚めるだろう」

「いや、覚めないから!全部が全部現実だから、リアルだから!」

「…………その馬鹿みたいにうるさいツッコミ……現実のバカ倉のもののようだ。わかった信じよう。」

「お前は一体俺の何を持って俺と判断してるんだよ……」

「前頭葉だ」

「戦闘力じゃなくて!?」

 べ○―タのようにメガネの横に手を添えている。あれは…………スカウター…………だろうか?

「ちなみに千だ」

「何が!?」

「……脳細胞」

「少なっ俺の脳細胞少なすぎだろ!」

「いや、多いだろう」

「常人は? 」

「三億だ」

「何分のなんだよ!!!」

 三十万分の一だった。

「はぁぁ。もういいや。それで、同室ってことも納得したか?もうねぼけてないよな」

「最初から全部分かってやってたに決まってるだろ(笑)」

「確信犯だと!!?」

 ――確信犯って使い方あってるっけ……?少し不安だ。

「ところでだ。一人で何を叫んでたんだ?」

「あぁFPSをしてたんだよ。そうだお前も一緒にしないか?お前がいれば絶対に勝てる」

「FPS……か。PC版のほうか?」

「そうそう、あのオンラインタイプのやつ。久しぶりにしたら楽しくってさ、はまっちまった」

「確かに久しぶりだな。オレもやってみるか」

 銀次郎はベッドからおり、倉の机の横にある小型のテーブルを部屋の中央に設置し、そこに自分のノートパソコンを置いた。倉のパソコンとは比べ物にならないぐらいハイスペックなそれは、すぐさま起動をし、あっと言う間にゲーム開始までありつく。部屋に入る前に銀次郎がマウスの感度を調節し、ここでいいと思ったのかオプションから決定ボタンをクリック、そうして倉がプレイしている部屋に入室をした。

「赤グループか?それとも青か?」

「俺は……青、だな」

「そうかじゃぁオレもそっちに入るとしよう」

 銀次郎は入ってきてすぐに両チームの戦況を確認した。赤の成績を見て不敵ににやっと笑う。

 ――あぁ、赤チームの方々かわいそうに。ご愁傷様です。できるだけ動かないほうがいいんじゃないでしょうか。

 倉の頭の中では何度も何度も銀次郎にやられて倒れていく相手キャラの姿が再生される。と、ここで銀次郎が確認をやめてマウスとキーボードに手をつけた。画面の中ではひときわ目立つサイレンサー付きのスナイパーライフルを持ったキャラが動いている。敵陣地と自分陣地を通して障害物が何もない場所でスコープを覗く。数秒後視界に相手の姿を捉えた、刹那――銀次郎の右手が閃き、引き金がひかれた。

 ヒュカッ。

サイレンサー特有の軽い銃声が鳴り、無残にも生き返ったばかりであろう相手は何もすることなく消し飛んだ。


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