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第1話――⑥



             4



 祭の話を聞いたせいか午後の授業は全くと言っていいほど頭に入ってこず、ただひたすら最後に祭から受け取ったプリントを眺めていた。

「――――」

 祭の言ったあの言葉が何度も、何度も倉の頭の中でリピート再生される。

 ――あんな内容が本当なのだとしたら、どこかの部に入部しても確実にその部での活動が楽しめるわけじゃないことになってしまう……。それにこの紙の内容からいくと創部なんてことはほぼ不可能だ。

「はぁぁ……」

「どうした。心気臭いため息なんかついて。バカのお前に悩むことなんてないだろう。それともあれか、馬鹿な自分に嫌気がさしてため息をついたのか?」

「うぉう!」

 目の前にはいつの間にか銀次郎が立っていた。

 ――あれ?授業はいつ終わったんだ?つーかこいつ人の目の前に立つの好きだな、おい。

 周りを見ると教室には十人ぐらいの生徒しか残っていなかった。その残りの生徒もバックの中に持ち帰るための教科書を詰めている。

「みんな帰ってる……?」

 疑問が口をついた。

「何を言っている。ついにボケまででてきたか……。ホームルームならさっき終了したところだろう」

 呆れた様子で銀次郎が説明をしてくれた。

「あっそ、そうか……ありがとう」

 そのどこか抜けたような倉の反応に銀次郎はようやく違和感を覚えた。

「倉、昼休みに松下と何を話した?」

 ――何を言われた。ではなく何を話したかと聞いてくるのか。さすがに感のいいやつだな。

「特になにもなかったよ。遅刻の報告書を書かされただけだ。……全く銀次郎のせいで面倒な目にあった」

 と軽くとぼけては見たもののどこか銀次郎は不服そうな顔をしている。

「そんな顔すんなよ。誰かが死ぬってわけでもないんだからさ。それよりさ、銀次郎はどこの部に入るつもりなんだ?」

「急に何の話だ」

「ふと思っただけだよ、特に深い意味なんてない。ただ、昨日俺が悩んでるのは話したけど、お前がどの部に入るかは聞いてないなと思って」

「そうか……」

 まだ何かを考えている様子で少しうつむいている。

 気がつくと外は陽が沈みかけていた。いつの間にか教室にも倉と銀次郎だけになっている。今時珍しい電波式じゃない教室の時計も夕暮れを告げていた。

「なぁ、もうこんな時間だからさ、帰りながら話そうぜ」

「それもそうだな」

 そう言って薄暗くなった教室を二人はあとにした。


 神楽高校の学生寮は学年により建ててある位置が違う。校舎を中心に考え正門側に三年、正門に向かって右が二年、左側が一年となっている。学校からの距離は五百メートルほどしかない。そんな短い道中、倉と銀次郎の二人は教室での話の続きをしていた。

「さっきの話の続きだけどさ。結局銀次郎はどこの部に入るつもりなんだよ」

「オレは倉と同じ部活に入るつもりだ」

「はっ?」

 一瞬銀次郎の言っていることが理解できなかった。

「聞こえなかったのか?聞こえなかったのだったら仕方ないからもう一回だけ言ってやる。オレは、お前と、同じ、部活に、入る。そう言ったんだ」

「そんなに区切らなくても聞こえてるし理解もできている」

「はっ?」

「変な仕返しとかいらねーから!」

「そんなことを言われなくてもお前がそう感じることは理解できているし、わかっていたぞ」

「なおさらタチが悪いんですけど!?」

「そんなことはさて置き、」

「お前が始めたんだよ!」

「うるさいぞ、倉。耳が痛くなる。少し黙ってくれ」

「……」

 ――どこまでも身勝手な男だな、コイツは。

「確かオレが倉と同じ部に入るって話だったよな?」

 急に下の話に戻してきた。内容を忘れていないあたり、さすがというべきなのか。

「あぁそうだよ。なんで俺と同じ部なんだよ。俺はまだ決まってもないのに」

「なら早く決めろ」

「それができなくて困ってんだよ」

 そう、それができなくて困っていたから、せめて銀次郎はどこの部に入るのか知りたく倉はこの話題を持ってきたのだ。

「そうか、だから、せめて参考までにとオレの部を聞いたわけか」

 ――相変わらず感が鋭いな。

「そうだよ、その通りだ。銀次郎はパソコン部あたりに入りたいのかと思ってたからな」

 街灯の灯りだけの暗い道の先に一年の学生寮が見えてきた。

「パソコン部か。オレから言わせればお前の方が入りたいと言い出しそうだと思っていた。ちなみにオレはお前が言うようにパソコン部に入りたい、とかは特別思ってはいなかった。ただお前と一緒の部ならそれでいい」

 真顔でそんなことを言ってきた。もしかして、

「お前って俺のこと好きなの?」

 ゴスッ

 ――殴られた。

「……なんで俺と一緒ならいいんだよ?」

 殴られた腹を手でおさえながら聞いてみる。

「それは……いじめるのが楽しいからだ」

「このクソ野郎!ちょっとはまともな目で俺のことを見てくれてるのかと期待しちまったじゃねぇか!」

 ――まったくどんな腐った心があればそんなことが言えるのだろう。

「勝手に期待しただけだろう」

「期待ほど虚しいものはないな……」

 ――今、身をもって思い知ったよ……。

 そんなこんなしているうちに二人は寮についた。二階にある自室へ向かうため、金属製の階段をカツカツと音を立ててあがり、玄関の鍵を開ける。

 今朝とは違いすんなりと鍵はあいてくれた。

 ――今日俺どんだけテンパってたんだよ……。

 部屋の明かりを付け、全開にされているカーテンを閉める。静かな部屋にシャッと鋭い音が響いた。


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