第二話――27
「おい銀次郎、どう見る?」
「さっぱりだ」
銀次郎が倉の質問に即答する。
「だよな……。流華は?」
だめもとで流華に聞いてみた。
「め………………」
「……め?」
珍しく真剣な表情で話し始めた流華の言葉を同じく真剣に耳をすまして待つ倉。
しかし返ってきたのは流華らしいといえば流華らしいものだった。
「……目玉焼きにはソースじゃなくてしょうゆ派なんだもん」
「それは今日の朝ごはんの話かな!?」
突発的な内容の高度なボケにも倉はしっかりついていく。そんな自分に今日は俺
キレッキレだぜと自らに高評価を与えた。
――くそっ流華に真面目な答えを求めた俺が馬鹿だった……。それにしてもソース
かけて出されたのがそんなに嫌だったのか…………ちなみに俺は塩派だが
「朝食についての不満に関しては同感だな」
「なんだよ、お前もしょうゆ派かよ」
「違う、オレは焼き魚派だ」
「せめて卵料理にしてくれよ!」
――こいつのボケそろそろめんどくせぇわ、ほんと
と軽口を叩きつつも銀次郎は現段階での情報を整理していた。
(…………考えられることはいくつかあるが…………。立証のためには事例がもう
少し欲しいところだな。かと言って倉に実験台になってもらうのはあまりにもリス
クが高すぎる。ここはとりあえず先に行くか)
銀次郎の中で今後の方針が決まったところで告げる。
「これ以上この件について考えていても仕方ない。とにかく先に二年四組に行く
ぞ」
「お、おう」
「りょーーかいっ!」
あらかじめ渡しておいたトランシーバーで和弥にも連絡を入れ、すぐそこに迫る
二年四組に向けて三人は歩を進め始めた。
この時、倉の頭にはなにか妙に引っかかるものがあった。なんとかチラつくそれ
を必死に捕まえようとしたがその正体に気づくことはできなかった。
ニ階から階段を上がり、三階へ三人は到達した。二階と同様にお祭り騒ぎのよう
な状態でアイテムによる喧嘩が勃発しているところもあればお互い干渉せずにCB
探しに必死になっているところもある。きっとこの階のどこかにもCBがあるんだ
ろうが、このフロアは二年一組から三組の文系組の教室とその他特別教室によって
構成されているためスルー。二日目のかねてからの目的であった理系クラスの四組
目指してそのまま階段を上がる。銀次郎が前もって気をつけろと言っていたのを倉
は思い出し、急襲に対する警戒を強めた。
慎重に階段を上がること残り五段。そこで倉はこのフロアの異常に気づいた。
「なんでこの階だけこんな静かなんだ……?」
そう、このフロアは三階までの騒々しさが全くないのだ。
「ほんと、なんかこっちまでヒソヒソ話になっちゃうね」
珍しくこの静かさの中に溶け込んでしまいそうなほどの小声で流華が答えた。
「なぜか…………はオレが説明するより見たほうが早い」
銀次郎はそう言って残りの階段を先に登りきる。
「お前がそう言うなら……そうするよ」
詳しい説明をするような時間はない。何より説明されたところで理解できるかど
うかも怪しかったので倉と流華は銀次郎のあとに続いた。
一番端にある二年七組、隣の六組の前を通り過ぎようとしたところで、ようやく
倉達は人の気配を感じた。会話の内容が聞き取れないほどわずかではあるが人の話
し声も聞こえる。
「どうやらビンゴみたいだな」
銀次郎は不敵な笑みを浮かべてそう言った。
「なんだよビンゴって」
倉がすかさず小声で聞き返す。
「どっかで聞いたことある声だと思わないか?」
「確かに……そう言われればそうかも…………」
――うーんどこだっけなぁ……なんだか懐かしい気もするんだよなぁ
「流華もこの声聞き覚えがあるよ」
「あたりまえだろう」
得意げに答える様子からどうやら銀次郎はこの声の主がいったい誰なのか知って
いるようだ。倉はついつい「誰なんだ」と聞きそうになったが、聞いて教えてくれ
るようなら初めから知らせてもらっているはずである。銀次郎の性格は自分が一番
よく知っているつもりだ。こういったとき、銀次郎という男は何も言わない。
――聞くだけ無駄だな
そう思った倉は自分の中に聞きたいという気持ちをしまいこんだ。
「よし、一気に行くからな」
「気を付けてね」
「とりあえず死んで来い」
流華からの元気の出る気を付けてねととりあえずぶん殴りたくなる言葉を銀次郎
からもたらった倉は、六組五組を駆け抜けM4を構えて四組の前に躍り出た。
眼前にサバイバルナイフの切っ先が出現した。
「っくぅぅおおぉぉ!」
ぎりぎりでかわそうと捻った体に銃自体の重さを遠心力に加え飛んできたナイフ
をやり過ごす。が、すぐに二本目のナイフが倉の側頭部めがけて飛んでくる。
――頭しか狙わないのかよ、芸がない
倉は一本目を避ける際に軸足にした右足に力をいれ後ろに向かって飛んだ。
三本目がくるか――とすぐに意識を次の回避動作に向けたが、ナイフが切れたの
か、はたまた諦めたのかどうなのかはわからないが一段落ついた。
いきなりどこのどいつだとなぜあのタイミングでナイフが投げられていたのかと
いう最大の謎を後回しにし、倉は二年四組の教室の中を目で見、認識し、驚愕し
た。
「か…………神谷……将斗…………」
「やぁ倉。久しぶりだね」
中学時代のバスケ部の友人がそこにはいた。