第二話――26
その異常な現象に一同は言葉も出なかった。
が、一瞬の硬直の後すぐさまひとつの結論に全員がたどり着く。
「「「和弥!!」」」
弾かれるように向かい側の校舎を見ると、見事その役目を果たした和弥が親指を
立ててたっていた。その傍らには和弥のアイテムであるSR
のDSR―1がB棟に銃口を向けて置かれている。
事前に校長のパソコンをハッキングして今回のアイテム戦のことを知っていた
ゲーム研究部はこのことを最大限に利用する作戦をいくつかたてておいた。そのう
ちの一つが今回のこれだ。本来なら自分たちの不可侵領域である教室には攻撃する
ことはできないし、中からすることもできない。
なぜなら不可侵教室の中にはアイテムが発現するためのフィールドが展開されてい
ないからだ。
だが、中庭には展開されている。それを利用した。下の階の外の屋根にあらかじめ
ダンボールを積んでおき自分たちの階の窓枠の高さに合わせ、身を乗り出してその
上にアイテムを発現させる。たったそれだけのことだが、この方法をとることが出
来るのはSRのような遠距離攻撃を可能にするアイテムだけだ。つまり向かい側の
校舎からは誰も和弥を攻撃することができないのである。和弥は安心して倉たちの
サポートに全力で回ることができる、ということだ。
「成功して良かった~」
倉が安堵の声をもらす。
「やぁってくれたなぁ!あののん!おいしいとこ持っていきよったぞ!」
「ほんとほんと!」
まるで自分のことのようにわいわいはしゃぐ流華とホーネット。
「早く行くぞ、時間がない」
と先を急ごうとする銀次郎もどことなく嬉しそうな様子だ。やはり考えていた作
戦が功を奏するのは気持ちがいいもので、いつまでもこの感覚に浸っていたい、倉
はそう思ったが銀次郎が言うように時間がないというのも確かであるから先を急ぐ
ことにした。
だが去り際、本当に何気なくふと目をやった視線の先に倉はおかしなものを見つけ
てしまう。
「こ、これは………………」
すぐそこに横たわる柔道部の彼の即頭部からうっすらと血が滲んでいたのだ。倉
はその場にしゃがみこみ傷口を近くで観察する。
「銀次郎、これ…………」
倉のさっきまでとは全く違う雰囲気を感じ取ったのか、銀次郎は真剣な表情で倉
の横に並んでしゃがみ、倉が指差す部分を注視した。
「………………血…………だと…………?」
血が出ているという異常現象はあの銀次郎でさえ狼狽するものだった。その理由
はいたって単純である。なぜなら、この浅い傷口は明らかに和弥が放った弾丸の着
弾点であるからだ。彼らの今この瞬間までの情報からするとアイテムは人体をすり
抜ける性質、つまり透過性がある。このことはこれまでの情報からだけでなく、常
識的に考えてもそうでなければならないことは容易に推測される。もし、アイテム
が物理的に身体に傷を負わせることができるのならまず間違いなく死者が出てしま
う。学校の行事で死人なんてことは絶対にありえない。それなら、この「透過性」
という性質は疑いようもなく存在するはずだ。だが今回、ほんのわずかではあるが
傷を負うという事例が発生したのだから流石の銀次郎が驚きを隠せなかったのは無
理もないことだった。