第二話――22
「よし、行くぞ!気合入れていけよ、今日からが本当の勝負だ!」
「おう」
「もちろんだよ」
「りょうかいだもーん」
珍しく銀次郎がみなを鼓舞し、士気を高めドアの前につく。すでに外では戦闘が始まり始めているようで、騒がしさが増してきている。
「倉くんカウントよろしく」
と和弥が倉にスタートの合図を任せた。
「分かった。……………カウント、三………二………一…………ゴー!」
ゴーの合図と同時に勢いよく四人は飛び出した。突撃銃とも呼ばれるアサルトライフルを持つ倉が、その名にふさわしい姿で先頭を走る。続いてその援護に銀次郎、和弥、流華と続き、ホーネットが後ろからの敵を索敵する形だ。まずは第一目的場所である職員室の真上、自分たちの不可侵領域の三年二組を目指す。和弥をそこに無事に送り届けることが二日目の作戦で最も重要なことだ。この工程が今日の結果を大きく左右すると言っても過言ではない。
四人で動くため、一時職員室を放棄することになるが、そこは銀次郎が抜かりなく対策は打ってあるため問題はない。
倉は急ぎながらも意識を研ぎ澄まし慎重に走った。できるだけの戦闘はさけたい、そう思った矢先、ちょうど階段から下りてくる男と目があった………気がした。その男は職員室を出てからここまで横をすんなり通してくれた人たちと違い、ゴーグル越しでもわかるほどものすごい殺気を倉たちに向けている。
鎧のような筋肉でそれが広い肩幅とごつい腕を作り、その体格に見劣りしない斧がその手には握られている。
その姿に階段を少し上がったところで足を止め、ここからどうしようと倉が頭を抱えて悩んでいると
「あー!」
列の後方から流華が顔を出して目の前の男を指さした。
「し、知ってんの?」
倉がそう聞くと、
「うん。確かねー、柔道部の一筋勝道君、だったような気がするの。一回だけだけど喋ったことあるんだよ」
「へ~なんて?」
「好きです、って言われたの」
「はぁっ!!?」
倉は驚き十割の表情で勝道君なる目の前の大男を見上げた。
また目があった。ギロリと倉を睨みつけている。
「あ、あの~…………」
その強烈な視線に耐え切れなくなりおずおずと倉が話しかけると、
「…………………………さねぇ……………………」
微妙に聞こえないギリギリの声量で勝道が何かを呟いた。
「えっ、え、え、え、なに?」
「るかたんはてめぇなんかにゃぜってぇ渡さねぇ!」
「ちょ…………なんで怒ってるんでしょうか!?」
――つーか、るかたんとかこいつ頭やべぇ
「は、はぁ………」
「るかたんは俺様のもんだ」
「俺のでもないけどな」
その倉の言葉に流華が少しシュンとなった。が、倉はそんな流華には気づかずに聞く。
「単刀直入に聞かせてもらうぜ。お前さ流華のこと本当に好きなの?」
「当たり前だ……………のクラッカー」
「古っ!」
勝道は恥ずかしげもなく肯定すると同時にボケるという高等技術を倉に見せつけた。
「しかしまぁそこまで堂々と言われるともはや清々しいな。俺も見習いたいわ…………その辺のボケに関しても」
「結婚を前提に付き合いたいと思っている」
「あぁだめだ。やっぱ見習えない。だってこの子の頭の中お花畑だもん」
「あわよくば柔道部に入れて寝技を教えたいとも思っている」
「……………」
このセリフにはさすがの倉もうまいツッコミが思いつかなかった。
――もうただの性犯罪者じゃん……………。
「寝技……………?寝技………………って………はっ!」
寝技=そういうことに考えが行き着いたのか、流華の頭がボンッと真っ赤になってショートした。唇をきゅっと結んで恥ずかしそうに下を向く姿がまた可愛らしい。
――これはこれでいい!
と思ったのもつかの間、勝道の叫び声が倉の意識を引き戻した。
「紙村倉ァ!」
「な、なんだよ」
「チェェェェェェェストォォォォォォォォ!!」
怒号にも近いそれはビリビリと倉の肌に伝わり、的確に倉めがけて振り下ろされる斧への反応を遅らせた。