第二話――⑰
案の定一歩目を踏み出して二歩目に入るというところでダンと銃声が聞こえてきた。銃声が聞こえてから動き出したんじゃアクションを起こすとしては遅すぎるが俺が踏んだ二歩目は一歩目とは明らかに違った。反撃をするための動作、バック宙。背中に迫る弾丸を越え、目の前で思いっきり振り抜かれる日本刀の軌跡を後ろに飛ぶことで避ける。我ながら完璧な選択。そしてなにより、リボルバータイプであるコルトパイソンは反動が(・)大きく(・・・)連射性に(・)は(・)秀でて(・・・)ない(・・)。それもまぁ時間的には一瞬ではあるだろうけど、それだけありゃ
「ぜーんぜん足りる!」
着地後瞬く間に間合いを詰めた俺は、ようやく銃を構え直したのろまな相手の腕を体に寄せさっきのやつと同じように足をはらった。浮いた体を一本背負いのような感じで腕を巻き込みデスクに叩きつけ、手首を軽くひねって今度は武器を奪い取った。
「動くな」
やべっ俺かっこいいわ。
肺の空気が一気に抜けたのか激しく咳き込むこいつに銃を向けて俺は続ける。
「動いたら……………撃つ」
噛ませ犬っぽいセリフでも気にしない。
「ッグ………く…………」
今にも飛びかかってきそうな侍女子(命名俺)を制した。……制した…………のはいい、けど気になることもあるんだよなぁ、とちょっと考えたところで俺の好奇心はあっという間に理性とか言う奴に勝ってしまった。
「ごめん、やっぱ無理!」
俺は何のためらいもなく引き金を引いてしまった。アイテムの攻撃をくらったらどうなるのか、それが知りたい一心だった。たったそれだけ。
そう、たったそれだけの俺の好奇心のせいでこの男子生徒は撃たれた右太ももを必死に抑え歯を食いしばって悶絶している。だがとりあえずは何がどうなるのかはこれだけの検証で十分に分かった。
今の一瞬に起きた出来事を簡単に説明すると、俺氏引き金を引く→デジタルの弾丸が勢いよく飛び出す→被弾をしたかのごとく太ももの中へと消えてゆく→目立った外傷はできていない→が、それなりの痛み、または衝撃が体を襲う。いやーこれは何とも恐ろしいことだ。刀とかどうなるのかな。後でどうにか試してみよう。
「まだ続ける?もう無駄だと思うけど」
いまだに俺に刀を向け続ける侍ガールに問いかけた。睨み合うこと数秒、縄のようなものを持った女子生徒その二が後ろのほうで初めて声を発した。
「…………降参です。諦めます…………」
「ちょっと!あんた何勝手に諦めますとか言ってんのよ!私たちの役目はどうなるのよ」
「もう十分だって、叢雲君もきっと許してくれるはず。これ以上はもう無理だって。だって二人がかりでも勝てなかったんだよ?私たちだけでどうするのさ」
「確かに………それはそうだけど………………」
叢雲君、君と言っていたことから推測するに男子。そこで伸びている二人のうちのどちらかなのだろう。許してくれるの意味がどうにも分からなかったけどまぁ失敗してごめんなさいとかそんな感じの言い方だったように思える。その程度、その程度のはずなのに叢雲君という初めて聞く名前がどうにも引っかかって後味の悪いもやもやしたものが胸のあたりにへばりついているような気がした。
そうやってもやもやの正体をなんとか掴めないか模索している間に結論が出たようだ。
「…………わかった。私たちの負けよ、そこの二人連れておとなしく出ていくことにするわ。」
「それはそれは賢明な判断だことで」
少し馬鹿にしたような口調で、負けを認めた相手の後姿を俺は勝利の余韻に浸りながら見送った。