第二話――⑬
前園銀次郎
ようやく、やっとついに始まりやがった。この時をオレが一体どれだけ待ったか。
倉の馬鹿は自分のアイテムに見とれて全然話を聞いていなかったが……………まぁ大丈夫だろう。作戦と集合場所は伝えてある。後でちゃんと追いつくはずだ。
さっきまで一緒に走っていた和弥は既に自分のするべきことをするために目的の場所に向かっている。
そういえば忘れていたが桐浦流華とは今朝以来結局会っていないが大丈夫だろうか、それが一番心配だ。
あぁ、そう考えたらますます心配になってきた。くそっ、こんなことなら倉に管理させとくんだった、失敗した。
とはいえ、今さら嘆いても仕方がない。始まって早々のミスで納得いかないがここは切り替えよう。こんなこともあろうかと念の為に重要になってくる役割は回してはいないからな、やってくれればラッキー感覚だ。
なにはともあれ、オレと倉が今やるべきことは陣地を取ることだ。この陣取りはこの三日間を大きく左右することになるだろう。自分たちが選んだ不可侵の領地とは別の隠れ家的なところを持つのがこの戦いでのセオリーだそうだ(廊下で誰かが話しているのをたまたま聞いた)。確かに、CBを持ち込めない領地は休憩、作戦の確認以外には使い勝手がないのだからこの戦い方はとても理にかなっていると思う。
だがこのSCWはもちろんのことながら陣取りにおいてもオレたちにはあきらかに不利な条件だ。二、三年がいる大所帯の部活のところは中継として動きやすい二階三階あたりをもうすでに占拠してしまっているだろう。小規模のうちみたいな部は詰められたら逃げられない校舎の隅の教室に押し込まれてしまって、今日から三日間はもはやおじゃん決定、諦めるしかない。
実際、スタートと同時に後ろの方に追いやられたオレたちはこうして未だにどこも取れていないでいる(目的の場所以外を取る気はないのだが)。
あのハゲ校長の急なシステム追加のせいで予定が変更になることもあった。だが今となってはラッキーだ。こいつはオレ達のハンデがアドバンテージに変えてくれた。
運動神経がいい奴が倉しかいない状況じゃ断然有利になる。特に和弥。あいつのアイテムがあればあそこの制圧は難なく済むだろう。幸先のいいスタートだ。
運はこっちに向いている………………!
よしっ、とらしくもないガッツポーズを小さくしてオレは目的の場所へと足を運んぶ。もちろん周囲には注意したがそこにはなんの問題もなく着いた。計画通り。
目的の場所、2階にあるこの部屋のプレートは
『職員室』
このSCW中、学校で閉められる、つまり入ることができない教室がいくつかある。例えば放送室、パソコン室など精密機械がある場所。そしてこの職員室もその一つだ。
だが、入ることができないのは鍵がかかっているから、というだけであってルールには入室禁止!なーんてことは書かれていなかった。
そこでオレはこう考えた。
「鍵を壊して入ればいい」
スチャッとあらかじめ持ってきていた小型のカナヅチをを取り出す。オレは目的の場所を目の前に緩んでしまっていた緊張の糸をまた張り治した。
知り合いの先輩に職員室とか入れない意味のないところは基本安全と聞いてはいたが油断はできない。オレはできるだけ音を立てないように、ゆっくりと慎重にドアに近づく。
だがその時、
ガラッ!
「!!?」
閉まっているはずのドアが勢いよく開いた。オレは慌ててそこにあった棚の影に身を隠した。
「………………んだよ、だれもいねーじゃんかよ……。ッチ」
聞き覚えのない声の主はいかにもだるそうなセリフと共に再び職員室内に戻っていった。
オレは小窓から姿が見られないようにしゃがんだままでそっとドアに耳を当ててみる。中からは複数人の話し声が聞こえた。小声すぎて会話の内容までは聞き取れないが、なんとか質の違いぐらいは聞き分けることができた。
………どうやら男子が二人、女子が二人の計四人のようだ。………どうする?考えろ。焦る思考がさらにオレの脳の動きを遅くする。
このイレギュラーな動きから察するにこいつらもオレ達と同じように一年のはずだ。和弥に合図をするか―?いや、まだ使うべきタイミングじゃない。この場所を諦める―?これは論外だ。ここをとってこその作戦だからな。
………くそっ何も思いつかねぇ………。どうする、どうする、どうするどうするどうするどうするどうするどう―――
「あれっ、何やってんだ?銀次郎」
こっちは聞き覚えのある声。
……………………こいつはほんっとうに
「………グッドタイミングだ!」
遅れてやってきた倉がスピードを落としながらオレの近くまで来た。
最近更新が遅れ気味ですがなんとか面白いものをと毎日奮闘しております(笑)さて、ようやく部活動対抗戦も始まりここから盛り上がるところとなっていきます。内容を濃くするために考え込んで遅くなったりするかもしれませんが、生暖かく見守っていてください!