第二話――⑫
なんてことを考えながら声のする方に顔を向けるとそこにはいつもの見慣れた眼鏡をかけた友人ではなく緑色のレンズをしたゴーグルをかけた奴がいた。
「誰だお前?」
「殺すぞ」
「すいませんでした」
いや、こえーよ怖すぎ。そんなにドスの利いた声じゃなくてもいいじゃないか、思わず声が裏返えっちゃったよ……。もう無理泣きそう。これはもはやトラウマになるレベル。
「んっ、ごほん」
気を取り直してとりあえず咳払い。
そうこうしているうちに同じようにゴーグルをかけた和弥が俺の視界に入る。
「お前らもう決めたのかよ………………」
素直に驚いた。なんだか置いてかれたような気もしなくはない。
「そんなことないよ、倉君が遅いだけじゃない?」
「ん~でもやっぱ悩むっしょ。俺何が必要になるとかわかんねぇし」
今日から三日間に関わることだ、そう安易にきめられるようなことじゃぁない。それぐらいの事は俺にだってわかる、………つもりだ。
「なんでもいいんだよ、なーんでも」
どこか間の抜けたような声で銀次郎が答える。ほんっと適当だな、コイツ。
「ちなみに僕のはこれ」
そう言って和弥が背中から何かを取り出すような動作をして、俺の目の前にさしだす、が、なぜか俺には何も見えない。
横でほーっと感心している銀次郎の様子から察するにどうやら俺にだけ見えていないようだ。
なぜだろうかと腕を組み、首をかしげていると
「イテッ」
頭に軽い衝撃が走る。トンッと銀次郎にチョップをもらった。
っった!何すんだこのやろぅ。むっと少し睨んだ。
「馬鹿か、ゴーグルだゴーグル」
そう言いながら銀次郎はチョイチョイと自分の目元を指さす。そこでようやく俺はゴーグルをかけてないと見れないことに気づいた。
そりゃそうだわな、じゃないとゴーグルかける意味ないし。やっぱ俺ってダメだなぁ。
そして俺はここでさらに自らのダメさを露見させる行動をとってしまう。
和弥のアイテムが見たい!そんな一心でさっき準備が終わったばかりのゴーグルを俺は急いでかけた。
―――――いや、かけてしまった。
瞬間、背中に確かな重みを感じた。ズッシリとしていてそれでいてとても冷たい、そんな感じだ。
そしてこれは俺自身が何が欲しいとか考えずにこのアイテムを出現させたものだ。つまり普段から俺の頭の中にあるものってわけで、
………………あーダメダメダメすっげー気になる!
俺は和弥のアイテムを見る、という当初の目的そっちのけで背中のそれを掴んだ。サイズはかなり大きめ。
8割の期待と2割の不安がある中、それを持ち上げ自分の目の前に持ってくる。
「す、すっげぇ………………」
決してバーチャルのものとは思えない俺の愛銃(ゲーム内での)M4がそこにはあった。
深い、とても深い闇の底よりも黒く、金属特有の光沢がより黒を際立たせている。
やっべ、なにこれ!超カッコイイ!この学校入ってよかったぜ、いや、ほんとに。さぁこの感動を誰に伝えよう!そう、彼らに!
そこでようやく俺は顔を上げて二人に声をかけようとしたが銀次郎と和弥のふたりの姿はおろかほかの誰の姿も俺の視界に入らない。さらに声すらも耳に入ってこないことに今更ながら気がつく。
「お~い、銀次郎~和――」
『や』と続いた俺の声は体育館の中に響くチャイムの音にかき消され自分の耳にはこれまた届かなかった。
………………ん、ゴホン。本日二度目の咳払い。それでは気を取り直して言ってみよう。
「SCW一日目スタートだっ!」
誰もいない体育館にチャイムに続いて俺の声は虚しくこだました。