第二話――⑩
紙村倉
開会式が体育館であることに俺はどこか因縁めいたものを感じていた。
別に、今回は自分たちが選んだ各教室からスタートをするのだからそこにそろったときに放送でもチャイムでもとりあえずなにか鳴らしておけば済んだだろうに。そっちの方が俺的には気が楽だ。
「えー今日は一年生が入学して初めての部活動対抗戦………………」
いつも以上に長い校長の話も、緊張で早鐘を打つ自分の心臓を抑えるのに必死で何の滞りもなく俺の耳を抜けていく。
そわそわしてしまい目はいろんな方向に行き、握ったり開いたり繰り返す掌には、すでにじっとりとした汗をかいている。
何この感じ、かなり気持ち悪いんだけど。
意識して周りを見ると俺と同じ症状のやつがたくさんいた。
……よかった俺だけじゃないじゃない………一人でテンパって恥ずかしい思いするとこだったよ、まったく。
そしてそのままぐるーっと頭を百八十度回し、俺の後ろにいる銀次郎に目をやると
「ふぁぁぁ…………あー眠い……」
その度胸はどこで手に入れたのか知らんがかなり余裕そうな表情で欠伸をしていた。おっと、ついついビンタしそうになっちまった。あぶないあぶない。
銀次郎の様子は確認したところで、俺は和弥の方はどうかなと体を列から少しずらし、ひょっこりと顔をだして見てみると、こちらはこちらで自由気ままに過ごしていた。
というかノートパソコンをいじっていた。
…………これはだめだろ。おーい先生………いや、この際誰でもいいから注意してやれよ。
そんな二人に俺はもはや敬意に近いものを抱きかけてしまっていた。すでに末期。医者にはもう一生治らん、って宣告されちゃうレベル。
そうしているうちに校長の話も終盤に差し掛かり、やっと終わるぞという空気が、体育館内全体を包み込み始めたとき、俺はもちろんのことだが、銀次郎、和弥、そしてSCW参加生徒全員が耳を疑う言葉を校長が口にした。
「えーっと最後に今年のスクールクラブウォーから、新しいシステムを取り入れることにしました。それでー」
ここでいったん校長は口を閉じステージの上から大きなプロジェクター用スクリーンを降ろし準備を始めた。
『新しいシステム』
その一言が俺の耳にくっついて離れない。しかしそれは俺だけじゃない。きっとここにいる誰もがそうなっているはずだ。
新しいシステムの内容よりもまず先に浮かんだ、詳細にも書いてなかったことをなぜこのタイミングで………?という疑問は準備を終えた校長の姿に俺の頭からさっと消えていった。
一人残らず目の前で青白く光るスクリーンに視線が吸い寄せられる。俺の聴覚はもう校長の言葉以外は耳に入ってこようとしないほどに集中した。
「それでは、改めて説明をしていきたいと思います」
高まる期待と不安とは対照的にとても聞き取りやすい、落ち着いた低い声が体育館に響く。
「今年から取り入れる新しいシステムですが、こちらです」