第二話――⑨
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いつもと変わらない朝。
いつもと変わらない道。
そしていつもと変わらない――――
「って…んなわけあるかぁぁぁぁ!」
「「うるさい(よ)」」
「あっ………すまん………」
SCW当日。
一般生徒は寮にそのまま残り自学となっている。
つまり今倉たちの周りを歩いている生徒全員が今日のライバルと言うわけだ。少しでもそう意識してしまったらもうそういった風にしか見えない。あの三メートルほど前を歩いている茶髪の男子生徒だって、いつも見ているはずなのにどこか違うオーラを感じてしまう。
「あーーーやっぱ駄目だ。きんっちょうするぅー!」
倉はぐしゃぐしゃと頭を掻き空を見上げた。
初めてのミスを許されない本番。昔はただ傍観するだけでしかなかったのが今回は自分の力で勝利をつかみ取らなければならない。
ベンチじゃない、コートだ。
眺めるんじゃない、動くんだ。
表向きじゃない、喜ぶんだ、心から。
朝からそう自分に言い聞かせて続けていた。
しかし、時間がたつにつれて、道が進むにつれて想像でしかなかった今日の事がだんだんとリアルになってくる。この重さにはどうしても耐えることができない。
――はぁ、早く慣れるしかないのか………………
倉がいつものようにため息をつきうつむいていると
「どーーーしたんだいくららん!そんなことじゃ今日の戦いは乗り切れないぞよ!さぁ元気を出すんだ元気をー!」
そんな天真爛漫な明るい声とともに倉は背中をばしんと叩かれた。その声の持ち主はタッタッタと走って倉たちを追い抜きふわりとスカートをひるがえした。そして数メートル先でこちらに惜しみない笑顔を向けた。
「お前は悩みがなさそうでいいな………流華さんよ………」
なんてこと言葉を言いはしても、そんな彼女に倉は、倉たちは沈んだ朝と緊張から解放してもらった。
そうこうしつつも一歩一歩、刻一刻と、その運命の時間は確実に近づいてきているのであった。