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第一話――①

第一話

 やりたいことは意外と勝手に見つかるもんだ



               1



 窓から差し込む陽の光。

 静かに揺れる庭の花々。

 時折、吹き込んでくる風は心地よく、空には雲ひとつない、澄んだ青色が広がっている。

 近くの公園からはわーわーとはしゃぐ子供たちの声が聞こえてくる。

 今日は四月十日。ここ、神楽(かぐら)高等(こうとう)学校(がっこう)に入学してから最初の日曜日だ。

「このゲームはどうかな、(ぎん)次郎(じろう)

 誰もが外に出たくなるような最高の天気の中、(かみ)村倉(むらくら)は中学からの親友である、前園(まえぞの)銀次郎と寮内でネットゲームをしていた。

「どうもこうもないだろう。ストーリーは普通。普通のくせに魔法や通常攻撃の動きが単調すぎる。やっててあきたぞ」

 銀次郎が少し下がったメガネを中指で押し上げ、はぁっとため息をつく。

「確かに銀次郎が言うように、バカの一つ覚えみたいな動きだったな……。」

「その通りだ。ゲーム中、相手は人にプログラムされた存在だということも忘れて思わず『お前は倉か!?』と主人公に突っ込んでしまったぐらいだ」

「俺はそんなに馬鹿じゃない」

「じゃぁ、そこそこに馬鹿なわけだ」

「気にしてるんだから言うなよな………」

「気づいていただと!!?」

「そんなに重症じゃないっ!」

 はっはっと声を上げて銀次郎が笑う。

毎回いじられて、その度に疲れてる俺の気持ちも考えてくれよ、とは口に出して直接は言えず、というか言ったら何をされるか分かったもんじゃないので、せめて態度で見せつけてやろう、そう思い倉はむすっとした顔で、していたゲームの手を止めた。

 倉と銀次郎の二人がさっきまでしていたゲーム【ドラサン・クエスト】―――名前がパクリっぽい―――はRPGにあたり、物語は主人公の村が悪魔に攻め込まれるところから始まる。その際に両親が殺されてしまい、その敵討ちのために主人公が悪魔城に向かう、といった内容だ。

悪魔城に向かう途中にいくつかの村が存在し、各村にその時のキャラクターのレベルに合わせて、クエストが用意されている。そのクエストをクリアしたり、ダンジョンにPOPするモンスターを倒したりして、話を進めていく、といったように物語の設定はいたって普通だ。

だがその『普通のRPG』、より質を落としてしまっているのがモンスターとの戦闘にある。コマンドは一般的なRPGと同じぐらい存在するのだが、攻撃する際の動作がほかに存在する攻撃方法とほとんど変わらないのだ。

 例えば、剣系攻撃である「アースカット」は初期に覚える技で、敵に体当たりをし、よろめいた敵を右、左と順に切りつけ、最後に突きをくりだす。

それにたいして、レベルが十になり、初めて覚える超級必殺技の「スタークラフト」という技がある。この技を手に入れた当初は、「どんな攻撃かな」、「何連撃かな」とかそれはもう子供のようにウキウキしながら雑魚キャラ相手に一回の戦闘で何十分と時間をかけ、MPを必死にためた。そして「いっけぇぇぇ」とか痛い奴みたいに叫び声をあげ、使ってみたのに、キャラクターがした動作は

体当たり、右、左に払って、豪快な上段切り。

――俺のウキウキを返してほしい。

ゲームに向かって、心から訴えたあの日の事を倉は一生忘れないだろう。

「それにしても……」

倉はコントローラーをもう一度手にとった。ゲームを途中で投げ出すのは性に合わない。

「それにしても、どうした?」

「俺はいつまでゲームしてるんだろうな。再来週までに部活決めないとは入れないんだろ。早く決めないと、高校最初の一年が残念なものになっちゃうじゃないか」

 カチカチとバトルコマンドを選択する。

「お前にはバスケがあるだろう。何を悩むことがある」

倉には小、中と続けてきたバスケットがある。少なくともバスケットが嫌いなわけではない。八年間も続けてきた部活を辞めるのにも少しばかり抵抗がるのは確かだ。

 しかし、中学三年の夏。最後のブザーが鳴るその時まで、倉がベンチに座っていたことも確かだった。自分には才能がない、と現実を突きつけられるのには十分な事実だ。

「……もう自信がないんだよ。好きだけど……それと、できる、は違うんだ。俺はそれをバスケットをしてきた八年間で知ることができた。今俺がするべきことは、自分が好きで、何をやりたくて、何ができるのか。それを見つけることだと思う」

 順調にボスのライフポイントも減ってきて、残り2割を切った。

「……」

 珍しく銀次郎が真面目な顔をして倉の話を聞いていた。何かを考える様な仕草を、時々見せてはまた考えてを繰り返す。

 それから数十秒ほどの間を置いてから銀次郎が口を開いた。

「お前自身が今何をするべきかわかっているのなら、それはもうほとんど悩みという悩みではないな。あとは自分を知るだけだ。したいこと、好きなことなんてものは意外とお前の周りにいくらでもあると思うぞ」

「俺がしたいこと……が周りに、か………。……ありがとう銀次郎、もう少し自分なりに考えてみるよ」

「その時間がなくて考え込んでいたのは一体どこの誰だ?」

「あっそういえばそうだった」

「はぁ……。これだから倉は……」

「これだから馬鹿は、みたいな言い方はやめてくれ」

「これだから馬鹿は……」

「言い直せばいいってもんでもねぇ!」

 ズガァァァァン。

覚えている中での最大級の魔法がラスボスに炸裂し、コントローラーの振動と共に、画面内のポリゴンが崩れていく。

画面の中には剣を持った主人公の姿だけが残った。

「んんっ…っと…。やっと終わったー」

「おっようやくクリアしたか。遅かったな」

「お前が早すぎるだけだ」

 銀次郎は昨日の時点でクリアをしていた。こいつにゲームの攻略で勝ったことは一度もない。恐ろしい程のゲーマーだ。

 倉は両手をあげて、グッと背伸びをする。今日一日中ずっとゲームをして動いていなかったためか、パキパキと背骨が軽い音をたてる。

 画面に出てきた、今までの冒険を記録しますか?という質問に迷わず、YESを選択する。

 クリアデータのセーブが終わり、さてエンディングはと、倉は食い入るように画面を見つめる。

 そんな倉の様子を銀次郎が何か言いたげな、でも言えない。そんな苦々しい顔で見ていた。

 そうしてやっと、セーブ画面が切り替わり――――――

 ピロリロリン♪ピロリロリン♪

『やったー!魔王を倒した!』

戦闘での「やぁっ」以外で初めて聞いた無機質な機械の音声と共に、剣を持った勇者が画面の中の大理石で飛び跳ねる。

 続いて…………

 テッテレ――。

 短いファンファーレの後、ピカッと光るライトエフェクト。それから何も起こることなくスタート画面に切り替わった。

 何とも言えない虚しい空気が、二人のあいだを漂いは始める。

「……」

「………」

 虚しさが増すだけの、魔法の言葉が、俯いていた倉の頭に浮かんできた。

「………………」

「…………………」

 沈黙が続いたが、倉は先ほど頭に浮かんだ言葉を言わないとやってられない、そう思い大きく深呼吸をして――

「最後までクソゲーかよ!!」

 十二時間というプレイ時間はなんだったんだ、という思いを叫び、まだわずかに残る虚しさと共に、パソコンの電源を落とした。


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